SS

□届かない
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『俺達もう、つるんでたってしょうがねぇよな』

銀時…?


『なしてこうなっんじゃ…わしの知っちょう高杉はもうおらん』

坂本…



『高杉…』




小太郎…?




『高杉…俺達はもう別の道を進むべき時が来たのだな』



こ、こたろう…



行かないでくれ……



「…小太郎…っ!」







 …はっ…


見慣れた天井の模様と、聞きなれた波の音が、高杉を現実へ連れ戻した。




―――夢か。



   ・… 届かない …・



そこは屋形船の一室。障子の外は夕焼けに染まり、いつの間にか寝てしまっていたようだった。


「晋助、やけにうなされていたでござる」


見ると、高杉の横たわる布団のすぐ脇には、三味線を鳴らす男が一人。

「…万斎」



「何か悪い夢でも見ていたようだが」


「ふっ…あいつ等が出てきた」


高杉は両手を枕にし、天井を見上げた。



船が掻き分ける水の音と、万斎の鳴らす弦の音。



「桂の名前をしきりに呼んでいたでござる」


わざと高杉の気に障るような「桂」の名前を口に出した。

「………」

高杉は忌々しげに目線だけを万斎へと向ける。


「思い出したでござるか、昔の…」
「うるさい。出て行け」

その低い声で、高杉の機嫌を損ねたことが手に取るように分かった。


「・・はいはい」


出ていく万斎に背を向け、高杉は舌打ちをした。


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