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□守るべきもの
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  終わったんだな
    何もかも

 幕府は我らを見捨てて
  開国したという話だ

 だが今日で長い殺し合い  
から解放されたんだ


 俺達は自由―――…



     ・… 守るべきもの…


天人襲来から20年、長い殺し合いの末手元に残ったのは、自分たちの望んだ世界とは掛け離れた天人配下の国だった。
結局、幕府は侍を見捨てたのだ。

しかし、この戦争を戦った者たちの多くは、国が乗っ取られ行く事に嘆くよりも、自分や家族恋人の安全が約束されたことに、ひと先ず胸を撫で下ろしていた。



「高杉、ヅラは?」

「…あいつは多分、裏の川の方」


部屋を出て行く銀時を高杉は黙って見送り、再び武器の手入れを始めた。

「晋介、おんしも行かんでええのか?」

坂本がへらへら笑いながら横へ座った。

「……うるせぇ」

機嫌悪そうに言うと、高杉は刀類を手荒に木箱にしまった。


―――…



銀時達の陣が駐屯していた場所は、割と穏やかな自然の中にあり、小さいが裏には川も流れていた。


銀時が言われた場所に向かってみると、川岸に座り込み一人黙々と何かを作っている桂の姿が見えた。


「ヅラ…?」

近寄ってみると、桂は無言のまま、手に持っている白い箱に明かりを灯した。


「…何だそれ」


「見て分らぬか、これは灯ろうだ」

言いながら差し出したそれは、木の枝の枠に白い紙が貼られ、中には小さいロウソクが立てられていた。

桂はその灯籠をゆっくり水面に浮かべると、そっと手を合わせる。

灯籠の流れていく先を見れば、他にもいくつか同じものが浮かんでいた。


「こんなものでも供養のつもりだ。死んで行ったあいつらに戦が終わったことも伝えたかったしな」

「いつの間にこんなもん作ってたんだよ・・ったくお前らしいな」


銀時は桂の隣に腰を下ろし、灯籠を一つ手に取った。
「しっかし…昔から妙に手先が器用だったよな、お前って」

「これしき誰でも作れるさ。だがあまり明かりが見えないな、もう少し暗くなるのを待つべきだったか」

桂は空を見上げ、ため息をついた。日は西に傾きつつあるが、晴々とした空だ。


「関係ねぇって、こういうのは気持ち次第だ」


銀時は興味深そうに、そのよく作られた灯籠を回し眺めていた。



そんな銀時を、桂は横からじっと見つめる。


・・・


「な…なんだよ、ヅラ」


「お前は本当に生きているんだな」


「な、いきなり何だよ…・・っイデデデ!」


まるで不思議な物を見るような眼差しを放った後、桂は何を思ったか銀時の髪の毛を引っ張った。


「…ああ、このモフモフ感、よかった本当に生きているようだ…・っイタタタ!」

今度は銀時が桂の頬っぺたをつねる。

「お前だって生きてんじゃねぇか、よかったな」

「は、はなせっ」


頬っぺたをつままれ上手く喋れないのを、銀時は面白そうにぐりぐりと続けてつねる。

桂は最初は負けじと力強く髪を引っ張ったが、次第に黙り込み、終いには目から一筋の涙が流れ出た。

銀時は予想だにしない涙にぎょっとした。

「なっ、もしかして泣いてんの?・・・何だよ、んな泣くほど強くしてねぇだろうが!」

銀時は桂を泣かせてしまった事に驚き、あたふたしていると


「よかった…」

桂がふと笑った。

「何・・」
「俺もお前も生きている…よかった…」

微笑んだと思えば、今度はせきを切ったかの様に泣き出した。

「ヅラ…」

今まで張りつめていたものが一気に弾けたかのように、止まらない涙。



久々に見た桂の涙。




どうしようか迷ったが、銀時は桂を片手で抱き寄せた。


照れながら桂の肩を抱いたが、今度は何と言葉をかけて良いか分からなかった。


しばしの静寂が流れる。


銀時の中で、ふと村塾時代の思い出が蘇る。


あの頃、よく高杉たちにからかわれていた桂。
性格は人一倍強がりなのだが、そういう桂を泣かせることを高杉等は面白がった。

夕方、銀時がよく一人で廊下を歩いている時、誰かがすすり泣く声を聞き奥の部屋を見てみると、決まって一人泣いている桂を見つけた。

その頃も、気の利いた言葉など掛けることはできず、出来る事と言えば傍に一緒に座ってやることだけだった。

だが桂も、そんな銀時の隣にいると不思議と安心できた。


― ああ、俺はいつでもコイツを守りたかった…



銀時は遠い昔を思い出していた。



すると、銀時の腕の中で桂がようやくボソボソと喋り出した。


「……仲間が次々に死んでいって…辛かった…」


「・・・・・・お前、みんなの前では一度も涙き顔見せなかったしな」

慰めとか励ましとか、銀時にとってそういった言葉を桂にかけるのは、とてもじゃないが照れ臭くて苦手だった。


「銀時、お前が生きていてくれてどんなに支えになったか・・・戦の間は考えないようにしていたが、もしお前が死んでいたらと…今頃考えて怖くなるのだ」

「…勝手に殺すなよ。それに俺が死ぬ訳ねぇだろ、いつもお前が後を守ってくれてたんだからよ」

「銀時………わっ」

銀時が桂の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。


「ったく泣くな!もう嫌な事考えんじゃねえ、俺らは生き残ったんだ」

ボサボサ髪に、少し目を腫らした桂は呆然と銀時の顔を見る。



銀時のその顔は、不安や悲しみを一気に吹き飛ばし、すべてを包み込む様な笑顔だった。


いつも、この笑顔に救われて来た。


「ありがとう…銀時」

桂は、ようやくやわらかな表情を見せた。


「…お前、んな顔で言われても…全然色気ねえな」

「別に色気など振りまいてないわ」


銀時は照れくさそうに頭をかいたが、桂のその表情を見て安心した。

― ああ、いつもの顔だ―

銀時は目を閉じ笑い、草むらに寝転ぶ。


そして桂も一緒に空を見上げた。


何年振りだろうか、こうして二人で空を見上げたのは。


「銀時、高杉や坂本も生きている」
 
「・・・あぁ」

「もうお前に背中を預けて戦う事もないのかな」

「…あぁ」

「銀時、これからも・・・」


天を仰ぎ、弾む声で未来を語り続ける桂の瞳は、希望に満ちあふれていたあの頃と同じく輝いていた。

銀時はそれにただ相槌を打っていたが、何故だか自分でも不思議な程、たまらなく切ないのだ。

「銀時、聞いておるのか?俺達はこれからも・・・・・・」


銀時は桂の傷だらけの腕を取り、自分に引き寄せるとそのまま抱き締めた。

「銀・・・」

銀時はすがる様に、強く強く抱き締めた。

「・・・・・ヅラぁ………」

「銀時…? まさか、泣いておるのか!?よしよし泣くな、ははは…」


無邪気に微笑むその笑顔が、銀時は愛おしくてたまらなかった。

その手に桂を抱き、改めて生きていることを実感した銀時は、自然と心が満たされていくのを感じていた。


水の流れる音と、柔らかな昼下がりの日差しが降り注ぐ。


二人を受け止める草むらが、時折風に揺れていた。



――・・・…


攘夷戦争終結後、銀時と桂はお互い別々の道を歩み始めた。


そして数年後、江戸の町で二人は再び出会うこととなる。


* fin


◎あとがき
この話のポイントは、高杉はヅラの居場所・行動は把握済みだというところ(笑)
高杉に聞けば桂がどこで何をしてるか分かるのです(笑)


攘夷時代のお話は大好きなので、これから色々書きたいな^^
いいですよね。幼馴染って。
二人(もしくは4人)の間に長い歴史があるというか…
過去があると夢も妄想も膨らむ(笑

銀さんの、桂が愛しくてしゃーない様子がどうにか表現したいのです…

銀さんにとって桂は海よりも大きな存在であるといい(笑


 

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