SS

□職務質問
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夜の街に響き渡る大砲の音。

「かぁつらぁぁぁ!」

充満する煙に巻かれていると、聞きなれた声に名を呼ばれる。

チッと舌打ちをし、大きな街道から裏路地へと逃げる進路を変更する。


「毎度派手にやってくれる。あれは沖田だったな…近所迷惑な奴だ」

桂はまるで他人事の様な言い振りで、いつものように裏路地を駆け抜けた。


その逃げ足は失速すること無く、猫から逃れるネズミのごとく民家の脇をすり抜け、やがて丁度良い影となるゴミ捨て場の横にしゃがみ込んだ。


しかし、最近はこの「追いかけっこ」も、以前とは少し違ってきているのを感じていた。

(読まれてきたか…)

パトカーのサイレンが近い。

桂の行動パターンは全て見通されてるかの様に、行く先には決まって沖田が待ち構えているのだ。逃げる経路までもが徐々に把握されてきているのだと悟った。


桂はそんなことを考えながら、座る体制を変えようと足を組み替えた瞬間、突き刺す様な鋭い痛みが足に走る。

「…痛っ…」

見ると、いつの間にか右足の足袋が真っ赤に染まっていた。
沖田の大砲は、いつも命中せずとも確実に、桂をいたぶる。


(早く…真選組の包囲網から脱せねば…)


桂はいつもならば民家の屋根を伝い逃げるのだが、張られていることは目に見えていた。

あえて逆をつき、裏路地をそのまま進みながら大通りへ出る。


案の定、誰もいない。

『勝った』

そう思った。




―…グイッ

「!?」



背後から、誰かがものすごい力で桂の両腕を取り、同時に口に布を宛てがわれた。

刀を取るすべも無く、案の定布に含まれた薬品を嗅がされる形となり、桂は気を失った。




……



「……」

また、誰かが自分の名を呼んでいる。


「……」

瞼を開けるのも億劫なほど、頭が重く、痛い。


そして…この匂い

タバコ…?


「おい、起きろ」


―!!


何度目の呼びかけだろうか、その声は急に鮮明になり、思わず目を見開いた。

そこには最も居てほしくない顔が。


「…貴様は…!」

桂の全身が一瞬にして強張った。


「よぉ、久しぶりだな。元気か?」

「…土方…」


目の前には、タバコをふかし、笑みを浮かべる真選組副長の姿があった。

「何故だ!これは一体…」

桂は挙動不審に視線を動かすと、どうやら自分は車の後部座席にいるようだと察した。

そして同じく土方も、後部座席にどっかり座っている。出口のドアを塞ぐように、こちら側を向いて。

そして思い出したように確かめてみると、案の定、手錠で拘束済みの両腕。


自分の状況を察知し本能的に逃げ道を捜すが、自分が座る側のドアの向こうには、ぴったりと民家の塀が立ちはだかっていた。

桂は唇を噛み、反射的に睨みをきかせる。


「おいおい、そんな恐い顔したところで無駄だぜ?テメエにもう逃げる術はねぇ」

「貴様…何が目的だ、言え」

怯えることなく食いかかる桂を、土方は相変わらず瞳孔が開いたその目でジリっと眺める。

「ふふっ」

鼻で笑う土方を見て、桂の中に訳の分からぬ不安がよぎる。

「なっ何がおかしい…」

「お前さ…自分の姿見てみ?」

「?!」

ハッとした桂は、自分の姿を見て思わず目を見開いた。


きっちり着込んでいたはずの羽織りが脱がされており、着流しは明らかに乱れ、帯のあたりまで肌蹴た跡がある。

桂の顔が一気に青ざめた。


「これは…貴様何をした!?」

寝ている間に一体何をされたのか、嫌な予感だけが頭をよぎる。


「おっと。そんな犯罪者を見るような目で見るなよな。忘れんなよ、俺は警察、お前が犯罪者なんだ」

「はんざい…」

「これは一種の職務質問だ。道で拾った怪しい奴の…身体検査をするのは当然だろ?」

「ふざけるのもいい加減にしろ…何をしたと聞いてるんだ…」

桂は静かに肩を震わせた。

「フッ、聞きたいか?そんなに知りたきゃ教えてやるよ…」

「なっ何をする!」


土方は桂の横に詰めるように座り直すと、乱れた襟元に何の前触れも無く手を入れ、鎖骨付近を撫で始めた。

「ひっ…やめ…ろ!」

桂は必死に身をよじり、土方の手から逃れた。
顔を赤らめながら吠えに吠える桂の反応を見て、土方は楽しそうに目を細めた。


「お前が寝てる間に、危険な物を隠し持っていないか隈なく検査させてもらった。案の定、短刀2本も持っていやがった」

「何を平然と…貴様正気か!?」

「ああ、正気だ。まぁ…もひとつ分かったことは…ククッ…お前のカラダ、意外と華奢なのな」

「ッ…何を…」

嫌な予感が的中し、桂は絶望した。



その時。

けたたましいサイレンの音と赤いランプの光が車内に入ってきた。

「ちっ、隠れろ!」

土方はとっさに桂を隠すように覆いかぶさると、車のシートにもつれ込んだ。

外からは、数人の隊員のしゃべり声が聞こえた。


「どけッ」
土方の全体重が掛かる桂は、息苦しさにもがいていた。

「しっ、静かにしろ。お前ここで見つかったらムショ行きだぜ」
「…どういうことだ?」


しばらく二人は辺りの闇に溶け込むように、息を潜めていた。

道端に止められたこんなにも不審な車
に、隊士が誰一人近づかないことから、この車もさしずめ、真選組のパトカーか何かなのだろうと桂は思った。


やがてサイレンの音と共に赤い光が消えると、再び静寂が訪れた。

「行ったみてえだな」

「おい…どういうことだ」

「ふっ、他のヤツらはまだ知らないのさ、お前が捕まったってことを。お前は俺一人の獲物でいい」

土方は車のシートに腕を立て、桂の体との間に少しだけ空間を作った。
やっと体にかかる圧迫感から開放され、桂は大きく息を吸った。

「貴様…いま警察としてけしからぬことを言ってるのが分からんか」

土方の発言を真面目に疑う桂を、無表情のまま見下ろす。

「お前はそこらの指名手配犯とは訳がちがうんだよ。すぐに引渡しちまったら…つまんねえだろが」

「何だと…」

土方は、スカーフを慣れた手つきで取り、ベストも脱ぎ捨て、Yシャツ1枚になった。


これから何が始まるか、予感は確信へと変わる。
手にかかる手錠のことや逃げ道のことなど、なるべく冷静に考えようと務めた。

相変わらず遠くの方からは、けたたましいサイレンの音が届いてくる。



すると、ふいに土方の手が桂の頬に触れた。

突然触れられた桂は、ビクっと体を強ばらせる。


「桂ァ…今はお前もここから出られないんだよ、なぁ…楽しもうぜ?」


土方の両手が桂の頬を包み、首へと滑り落ちる。

「気やすく触るな…!」


自分と平行に横たわる土方。
顔と顔が近い。桂は毅然と振舞うがその顔は明らかに怯えている。

それを見た土方は、いたずらに桂の首に噛み付く。

「…ッ!?」

余裕を見せていた桂の表情は、脆くも崩れる。

「お前もそんな顔するんだ?へぇ…」

桂の表情を確認し満足気な笑みを浮かべると、再び首元に顔をうずめ、舌を這わせてみる。

「…っ」

「お前さっきから余裕ぶってやがるが…気をつけたほうがいいぜ?逆にそれ、そそられるから」

わざと耳に触れるか触れないかの所で囁く。


あれよあれよと言う間に、襟元を大きく割られ、そこから白肌が顕になる。

「や…やめろ!」



―ドカッ


その時、桂は唯一自由な足で、土方を思いっきり蹴っていた。


「…ってぇな」


グッ…

「ぐぁっ…」

土方は、傷のある桂の右足を掴み、思いっきり握った。

塞がりかけた傷口が再び開き、血がにじんできた。

「馬鹿だなぁ。抵抗してもこの状況、どう見てもお前が不利なんだけど?」

「くっ…」

じんじんと繰り返す傷口の激痛に、桂は顔をしかめ、その額には汗が噴き出た。

「大人しくしてないともっと苦しむことになるぜ…」


車の中ということもあり、桂にとって非常にきつい体勢であった。

土方は、桂の横に片肘を立て、体重をかけぬよう少し体を浮かせるが、しかしほぼ密着している。

そうこうしている間に、確実に土方の腰が桂の足の間に侵入している。

「い…痛いっ!」

見ると、桂の両手は後ろでに縛られていたので、そこに二人分の体重が掛かり痛がっているのだ。


「おっと悪い悪い」

そう言うと、土方は慣れた手つきで手錠を外し、桂の手を自由にした。しかし、すぐにまた手錠をかけ、今度は片方を車のドアハンドルに、もう片方をシートベルトの金具に繋いだ。

「こんな感じでいっか」
「…離せッ」

「もう分かってんだろ?言っても無駄だってことくらい」

再び両手を拘束された桂の胸を、無骨な手が滑る。

「んっ…」

頑なに口を紡いでも、妙な声が出てしまう。桂は自己嫌悪でいっぱいになった。

土方は、その滑らかな触り心地を楽しむかのように、いたずらに手を這わせる。

「お前の身体…いつまで触ってても飽きねえよ」


さっきまで自分はどの位の時間、気を失っていたのだろう。どの位の時間、こうされていたのだろう。
どこまで触れられたのだろう。

そんな疑問が桂の頭をぐるぐると巡るが、もちろん答えなど聞きたくも無いことだ。


時折、胸の突起に触れられると、土方が面白がるほどの反応を見せてしまう。

胸を這う手が脇腹に滑り落ちたかと思うと、胸の上に生暖かい感触が。

「…うわっ!」

それまで顔を背け耐えていた桂だが、一瞬で起き上がり、土方の方に目をやる。


土方は舌で胸の突起を濡らしながら、こちらの反応をうかがっていた。

「ふぁっ…」

なんとも間抜けな声を出してしまい、思わず耳を塞ぎたくなる。反射的に耳に手を持って行こうとするが、つながれた手錠がそれを許さず、ガチャリと虚しい金属音だけが鳴る。


土方は一言も喋らず、夢中で桂の身体に吸いつく。桂は声を出すまいと必死に堪えるが、しんと静まり返った車内には土方の吐息や濡れた音が響き、かえって桂を追い詰めた。


「ん…」

胸を這う舌の感触と、脇腹を滑る掌の感触。それらの予想できない動きが絶妙な快感となり、桂の背中をゾワゾワと走った。

「意地張ってないで楽になれよ」

「貴様…なぜこんなこと…」

夢中に胸に吸い付いていた土方は顔を上げ、桂の目線と合うところまで這い上がってきた。

「フッ、わりィな。俺にヤラシイ目で見られてたなんて、思いもよらねぇだろな。でもよぉ、男なら誰もが持つ本能みてぇなもんだろ?」

「自分が何言ってるか…わかってるのか…」

胸元を肌蹴られ、無数の赤い跡の付いた肌を露にされ、その羞恥に桂は涙を浮かべていた。

「お前を何年も追わされる間に…捕まえてメチャクチャにしてえ、って思うようになって……何でだろな。俺にも分かんねえや」

「…下衆が…」

出来る限りの軽蔑を込め、言葉を吐き捨てる。

しかし土方はポーカーフェイスを一切崩さず、至って仏面なので、桂にとってそれがかえって不気味だった。

徐々に顔が近づき、土方の唇と桂のそれが触れる。

「ふっ…」

歯列を割り侵入してきた舌が、次第に激しく口内を犯す。


―…舌を噛み切ってやろうか…?


冷静な考えが一瞬頭をよぎるも、甘く激しい口づけが桂の理性を瞬時に奪っていく。

「んん…」

その時。
桂の両足の間に腰を割り込んでいた土方が、わざと中心に擦れるよう腰を推し進めてきた。

「んっ土…方」

「もう一つの理由教えてやろうか?」

「何…の……」

車内では布の擦れる音と、手錠の金属音がやたらと耳につく。

その静寂を切るかのように、土方がささやいた。

「聞いたところによると、万事屋の野郎…」

「な…銀時…?」

「万事屋の野郎と、お前ってイイ仲なんだってなぁ?」

「っ…」

唐突に銀時の名を出され、思わずたじろぐ。
なぜ土方が銀時とのことを知っているのか、なぜここでその名を出すのか、それが理解できず桂は動揺を見せた。

「あの野郎が惚れちまうくらいだ、きっと他には無ぇ魅力があるんだろうと思ってね。その甘ったれた面だけじゃねえ、何かが…」

「ふん…それで真っ先に身体を?幕府の犬とはよく言ったものだな。まるで野良犬のように……んッ」

土方は、桂のその分かりやすい反応一つ一つを楽しみ、もっと声を聞くためにと更に腰を押し当てる。

一定のリズムで当たるそれが、次第に質量を増していることを、桂は布越しに感じていた。


「ふっ…テメエも同じじゃねえか。通りすがりのオス犬に乗られて、すぐそんな声出すんだからな」

「…黙れっ…」

一番憎むべき主敵であるにも関わらず、身体を重ねられ感じている自分がとてつもなく情けなくなり、桂は思わず歯を喰いしばった。

土方の厚い胸板と大きな手、端正な顔立ちの中に憂いを秘めた目。

ふと、そこに銀時の姿を重ねてしまい、「ダメだダメだ」と必死に頭の中でもみ消す。


すると、土方の手が、すっかり緩くなった帯にかかる。

「ッ…やめろ」



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