Story
□窓際の、一番前。
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入学式。
初めての教室に緊張しつつ、見つけた自分の席にほっと胸を撫で下ろす。
窓際の、一番前。
意外と先生の目につかない穴場だ。
窓の外には、満開の桜。
手を伸ばせば届きそうなところに花が咲いている。
「わぁ、桜!」
澄んだ声がして、瞬間舞い上がる花びら。
窓のそばに駆け寄っていたらしい声の主の姿と
風にあおられて花びらとともになびく長い髪が
目に、映る。
思わず見つめていたらしい僕を、くすりと笑った。
「桜、ついてるよ」
そういいながら、僕の髪についた花びらをとる。
「これもらっていい?」
花びらを見せて問いかけられ、僕はただうなずく。
「地面につく前の桜の花びらは幸せを呼ぶんだって。」
どこから聞いたのだろう迷信を楽しげに話す少女から、視線をはずせない。
「幸せ、もらっちゃったかな?」
ありがと、と笑って去っていこうとする後ろ姿を見たとたん、勝手に口が開いた。
「あのっ」
「名前、なに?」
桜の花びらに呼び寄せられた、出会いの幸せ。
end.