*短編*
□それは、秘密の誓い
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** ガッシュside **
公園から帰ると、母上殿が笑顔で迎えてくれた。
「お帰りガッシュちゃん。清麿もつい今さっき帰ってきたトコよ」
その言葉に慌てて靴を脱ぎ捨てると、
「ただいまなのだ母上殿!!清麿の所に行ってくるのだ!!」
バタバタと階段を昇り、いつもの様に清麿の部屋を開け、今まさに着替えようとしていた清麿に飛び付く。
「きーよーまーろー!!!」
「ぉぅあっ!?」
――ゴチンッ!!!
大きな音がして顔を上げると、清麿が頭を押さえて眉をしかめていた。
「イテ…」
「き、清麿!?スマヌ、すまぬのだ清麿!!!痛いのか!?大丈夫か!?」
つい嬉しくて、力の加減などせずに飛び付いてしまった。
――清麿は、人間なのに。
傷の治りも遅ければ、身体も脆い人間なのに。
――また傷付けてしまった。
「大丈夫だって、んな顔すんな」
優しく頭を撫でられて、ガッシュは必死に清麿を抱き締めた。
自分の小さな手では、覆い隠せない程大きな背中。
――大丈夫、ちゃんと、心臓の音が聞こえる。
「清麿の『大丈夫』は信じられないのだ!!」
どんなに身体が大きくても、自分よりずっと脆い清麿。
それが分からない様な人ではないのに、身体の小さい私を守ろうとして傷だらけになる清麿。
どんなに大丈夫じゃなくても、清麿は自分を犠牲にして微笑うのだ。
『大丈夫』だと、あの時の様に―――
これからもきっと、清麿は優しい嘘を吐き続けるのだろう。
自分以外の、誰かのために。
―――だから。
「清麿はウソツキだから、心配し過ぎるくらいで丁度イイのだ」
私は絶対に、その言葉を信じたりしない。
「悪かったって言ってるだろー……」
呆れた様な声と大きな溜息が聞こえて、ガッシュはその琥珀色の瞳を睨み付けた。
「清麿は分かってないのだ!!!私があの時、どんなに……どんなに………ッ」
―――息も出来ないぐらいの恐怖を、今もまだ鮮明に覚えてる。
「泣くなよ…俺はココにいるだろ?」
優しい優しい、清麿。
「うーッ……きよまろは…っく……ウソツキなのだーッ!!」
―――悔しい。
清麿に嘘を吐かせてしまう自分の弱さが。
『ガッシュ、これから俺の身体に何が起ころうと、絶対に俺を振り返るな』
もっと強ければ。
私がもっとずっと強ければ、清麿に死の覚悟など、させずにすんだのに。
あんなに痛い思いなど、させずにすんだのに。
頭のイイ清麿が、あんな方法しか取れなかったのは、私があまりにも弱かったからだ。
『何故、返事をせぬ?』
『何故、固まった様に、身体が動かぬ?』
あの時の気持ちは、今でも上手く言葉に出来ない。
目の前が真っ暗になって、世界中で一人ぼっちになったかの様な錯覚に陥って。
自分の弱さが許せなくて。
清麿の嘘が悔しくて。
もう二度と微笑ってもらえない事が恐くて。
泣きたくないのに涙を止められない自分が情けなくて。
声をあげて泣いていると清麿が抱き締めて、優しく背中を撫でてくれた。
「ゴメン、ゴメンな、ガッシュ……」
また、そうやって。
優しい彼は、自分を責める。
「………ゴメンな」
今にも泣き出しそうなその声に、溢れる涙を無理矢理止める。
「っく……清麿の、大馬鹿者……」
悪いのはお主ではない。
悪いのは私だ。
お主を巻き込み、
傷だらけにし、
守り切れない自分が悪い癖に、
今なお涙を止められぬ、
弱い私が全て悪いのだ。
それなのに、清麿に謝らせるなど間違っている。
顔を上げると、清麿はひどく寂しそうに微笑った。
「うん、ゴメンな?」
消えそうに儚い微笑に、ガッシュは思わずしがみついた手に力を込めた。
「もう…もう二度と、嘘などついてはならぬのだぞ!?」
――お主が、嘘などつかなくても良くなるぐらい、強くなるから。
それは、口には出せない、ガッシュの誓い。
「分かってるよ」
「絶対!!絶対に、約束だからな!!!」
絶対に。
―――強く、なるから。
「あぁ、約束だ」
差し出した小指に、清麿の指が絡まる。
待っておれ、清麿。
私は絶対に、強くなるのだ。
せめて、清麿を守れるくらいには。
もう二度と、お主をウソツキにはさせぬから。
繋いでいた小指を離して、ガッシュは笑った。
END