*短編*

□大丈夫
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魔本が燃えるその様を、何度夢に見た事だろう。

その度に跳ね起き濡れた瞳を、何度笑って誤魔化した事だろう。



――あぁでもこれは、


夢じゃ、ないんだ



『本当に守りたかったのは』


「清麿……」

大きな瞳に溜まる透明な涙が、金色の瞳を更に輝かせる。

いつだってお前が俺の分まで泣いてくれたから、怒ってくれたから、俺も真っ直ぐに前だけを見ていられた。

お前の涙は俺にとって、何よりも純粋で、何よりも尊い大切なもの。


だけど、今日だけは。


「ああ、泣きはしない。オレ達の別れはもうすました」

笑ってくれよ、ガッシュ。

「そうだよな?」

熱を増す瞳にぐっと力を込めて、ふわりと微笑んでみせる。


――まだだ。

まだ、泣くわけにはいかない。


ガッシュの笑顔を焼き付けておくために。

思わず目を細めてしまいそうなくらい眩しい、太陽みたいなあの笑顔で、最後を迎えるために。

「ウヌ…あの、清麿の卒業式で…」

ほんの三日前の事なのに、ガッシュは遠い昔を懐かしむように目を閉じて微笑んだ。

段々と透けて行く身体に

目の前に迫る別れに

小さな拳はキツく握り締められていた。

そしてゆっくりと作られた表情は、出逢った頃からは想像も出来ない、大人びた微笑みで。

「ありがとう、清麿」

その笑顔を見た瞬間に、予感は確信へと変わった。

――これがきっと、最後になる。

もう会う事は叶わぬのだと、その表情が告げていた。

「お主がパートナーで良かった。誰よりも何よりも、一番に大好きだったのだ」

『俺もだよ』、そう伝えたかったけど、口を開くととんでもない言葉が出てきそうで。

キツく噛み締めた唇を、どうしても開けなかった。

「この先も、ずっと…」


パチッ


シャボン玉が割れるように小さな音が耳に届くと同時に、ガッシュは姿を消した。


   
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