*短編*
□猫麿パラレル
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――ガサリ
草むらから聞こえた物音に、ガッシュはピタリと歩を止めた。
(猫でもいるのかの?)
無類の動物好きを自負するガッシュは、興味津々で音の方へと歩き出し、ふと鼻を掠めた匂いに眉を顰めた。
風に紛れて、微かに血の匂い。
*****
(逃げなきゃ…!)
段々と近付いてくる足音に、荒い呼吸を無理矢理整える。
立ち上がろうと腕に力を入れた瞬間、鋭い痛みが全身を駆け抜けた。
「痛ッ…ぅ、」
「…っお主、どうしたのだ!?大丈夫かッ!?」
伸ばされた手から慌てて身を引き、キツく睨み付けるが。
「……ゼオ、ン?」
そこにあった見知った顔に、身体中から力が抜けた。
「ど…して、此処…」
湧き上がる安堵感から、ゆらりと視界が滲む。
自然に綻ぶ口元を隠す事なく、清麿はふわりと微笑んだ。
「……会いたかった、ゼオン」
「ぬ?ぜおん?」
きょとんと丸くなった瞳の色と、普段の彼ならば絶対にしないその表情に、一度は解いた警戒を慌てて取り戻す。
「ッ…誰だッ!?さっさと変身を解きやがれッ!!」
「変身?」
「とぼけッ…痛、ぅ…!!!」
(駄目だ、視界が霞む…!!)
「ッ大丈夫か!?早く手当てをッ…」
再び伸ばされた手を、鋭い爪で引き裂き睨み付ける。
「痛ッ…!!」
「…れ、に…触るな…ッ!!!」
――死ぬもんか。
こんな所で、何も掴めぬままに。
『清麿、笑って帰って来いよ?』
無造作に放られた本を手にした瞬間、無色だった筈の本は瞬時に赤く染まった。
『ソイツが、お前の求めるモノへと導いてくれるだろうからな』
哀しげに微笑んだ紫の瞳を見つめながら、誓ったんだ。
絶対に、見つけてみせると。
己の魂の半身、唯一無二の『パートナー』を。
それなのに。
「……ぜ、ぉ…」
重い体に引き摺られるように、そこでプツリと意識が途切れた。