*短編*

□一番近くて遠い友人へ
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 親愛なるパートナー・誰より一番近くて遠い友人へ、この手紙を送ります。



『一番近くて遠い友人へ』



 寒さも大分和らいできた今日この頃、桜の蕾が日に日に大きくなってきました。この時期になるとどうしても、あの頃を思い出して胸が締め付けられる思いがします。
 誤解のないよう記しておきますが、それは決して辛いからとか、嫌だとかいうマイナスの感情で胸が痛くなるわけではありません。むしろ真逆と言ってもいい。あの頃が楽しすぎて、幸せすぎて、思い出すたびに切なくなるだけなのです。

 って、ちょっと固苦し過ぎたかな。すまん。普段手紙なんて親父にしか書かないもんだから、どうやって書いたらいいのか分かんなくなっちまってさ。
 お前が眠くなったら困るから、普段話すように書いてみるな。それならお前も、読みながら寝るなんてことないだろ?

 元気にしてるか?ガッシュ。俺は元気だよ。
 恵さんやフォルゴレはたまにコンサートのチケットを送ってくれるよ。今更だけど、あいつって有名人なんだよなぁ(恵さんはともかく、フォルゴレが信じられん!)
 時間があれば水野と一緒に見に行ってるんだけど、二人とも元気そうだぜ。
 アポロやサンビームさん、他のパートナー達からもたまに手紙が届いたりするけど、みんな元気そうにしてるよ。そっちもみんな、元気だといいな。

 お前が魔界に帰ってから、もうすぐ三年になるな。実は明日、高校を卒業するんだ。
 中学の時はお前がいて、桜が満開で、何だか凄く"卒業するんだ"って気がしたけど、今回はあんまり実感が沸かない。
 水野や山中や岩島、それから金山まで、未だに交流があるんだぜ。みんなバラバラの学校になって三年も経つのに、会えば昔みたいに笑い合えるんだ。高校の友達とも多分、そんな風に付き合っていけると思う。そう思うから余計にさ、"卒業"がそんなに悲しい事だとは思わないんだ。
 あの時あんなに悲しくて辛かったのは、お前ともう会えないと思ってたからかな。

 今なら分かるよ。俺はすごくお前に守られてたんだって。ありがとな、ガッシュ。
 言っとくけど、"敵から"って意味じゃねーからな?
 お前はいつも、いつだって俺の味方でいてくれただろ?駄目な時には本気で怒って、俺のために泣いて、一緒に喜んでくれたこと。
 多分気付いてなかっただろうし、今も分かってないだろうから書いておくけど、俺はそういうお前の全部に、ものすごく救われて、支えられてたんだぜ。
 だから、ありがとう。本当に本当に、ありがとな、ガッシュ。

 高校を卒業したらさ、俺は大学に進む事にしたんだ。推薦もらって、もう合格もしてる。
 分野は色々迷ったけど、医療関係に進む事にしたよ。

 お前が一度だけ手紙をくれたの、覚えてるか?『また会いに行く』って書いてくれた手紙、今も大事に持ってるよ。
 あの時俺は誓ったんだ。また会う時は、俺ももっともっと大きくなって、世界を救うくらい大きくなってやろうって。
 だけどこの三年間で、数字やデータで知っていた事実は、現実になって重く圧し掛かってきた。知らなかった世界が見えて、それに負けないよう俺はまたたくさんの知識を頭に詰め込んだ。だけどそれでも、世界を救えそうなほどの何かは、まだ見えてこない。多分この先も、"それ"はそうやすやすと掴めるものじゃないんだと思う。
 だから、一番目に見えて人を救える、医療を学ぼうと思ったんだ。そこなら俺の武器が役立つだろうし、お前に散々バルカンを作らされたお陰で手先は器用な方だしな。まぁ、俺の目標は新薬を開発して不治の病って言われてる病気を治す事だから、現場よりも研究の方に力を入れるつもりなんだけどさ。

 悪い。あんまり難しい話しても分かんねーよな。起きてるか?

 つまり俺が何を言いたいかっていうと、お前がすごく頑張ってるだろうなってこと。
 王様になるのはお前の目標だったから、それを叶える協力が出来たのは俺の誇りだし、凄く嬉しい。
 だけど世界を知るたびに、お前がどれほどのものを背負ってるのかをいつも考えちまうんだ。

 なぁ、お前、辛くないか?大丈夫か?無理してないか?
 お前は周りのために自分を犠牲にするのを厭わないから、たまに物凄く不安になるよ。お前が無理して頑張ってるんじゃないかって。
 お前が強いのは知ってるから、大丈夫だってのも分かってはいるんだけどな。でもお前、泣き虫の甘ったれだから。
 ゼオンはちゃんと"お兄ちゃん"してくれてるか?俺はお前を甘やかしてやれないから、誰かがお前の頭を撫でて、「よく頑張ったな」って言ってくれてる事を願うよ。
 テッドはいい兄貴分だったよな。ティオも、同い年なのにお前の姉ちゃんみたいなとこがあったな。
 きっと今もお前を支えてくれてるんだろうな。お前は幸せ者だな、ガッシュ。

 なぁ、ガッシュ。
 例えばいつかどうしようもない事態に陥って、大きな岐路に立たされたとき。
 何が正解で何が間違いか分からなくなったとき。
 選んだ道が正しかったのか、途方にくれたとき。
 震えるお前の両手を包んで、お前の泣き言にいつまででも付き合ってやる。
 立ち止まったお前の背中を、俺がそっと押してやる。
 お前が一人で佇むときは、必ず俺が傍に居るから。

 だからお前は、自分を信じろ。
 選んだ答えを強く信じて、どこまでも進め。

 お前はいつだって絶対に、迷っても間違ってもどんなに遠回りしても、最後には正しい道に帰ってこれるから。
 俺が断言する。
 お前は、正しい道を進める!
 なんたってこの俺様が、お前に徹底的に善と悪を叩き込んだんだからな。

 それでももしも少しだけ道を間違った時は、俺のせいにしたらいいさ。
 「きよまろが背中を押したのだ」なんて言って、やるせなさも憤りも全部俺に向ければいい。
 そしたら俺がゲンコツ作って、お前の頭を叩きに行くから。

 だから、頑張れよ。
 大好きな友達がたくさん、お前を支えてくれてるんだろう?
 それにいつだって、お前には俺がいるからな。
 お前を絶対的に信じてる人間がいるんだって事を、忘れるなよ。
 出来る事から、一個ずつ。
 前だけを見て、進めばいいから。

 何だか思ってたよりも大分長くなっちまった。やっぱり手紙って難しいな。

 お前がこの手紙を読むのは、果たしているになるんだろうなぁ。
 魔界への手紙の出し方なんて、デュフォーでさえ分からないらしいからさ。
 だけど俺は、諦めないぜ。
 いつか絶対、この手紙をお前に届けてみせる。
 それまでお互い、頑張ろうな。
 今の自分に出来る事を、精一杯やっていこう。
 お前がいつだって俺を応援してくれてたように、俺もいつだってお前の事を応援してるから。

 頑張れよ、ガッシュ。





「高嶺清麿より…っと」

 ボールペンを置いてぐっと大きく伸び上がると、背もたれが軋む音がした。

「っくー、腰いてぇ」

 ずっと同じ姿勢でいたせいだろうか。緩く肩を回すと、止まっていた血液が流れるような感覚さえする。
 書き終えた手紙を見てみれば、計3枚。普段書く手紙と言えば親父やナゾナゾ博士達に送る近況報告の1枚きりだから、俺としてはかなり長く書いた方だ。というより、思えばこんなに長文の手紙を書く事自体が初めての経験である。

 改めて、自分がガッシュとどれだけ話したいのかを自覚してしまい苦笑が漏れた。一緒に居た頃はあんなに、絶え間なく話そうとするガッシュを煩く感じていたのに。
 大切なものほど失わないとその価値が分からないとはよく言ったものだ。自分がそれほど愚か者だったなんて思いもしなかったけれど、事実がこうである以上、それは真実なのだろう。

(…だけど、終わりじゃない)

 ガッシュは俺に会いに来ると言った。そして俺も、手紙はもちろん届けるし、待つばかりではなく会いに行きたいと思っている。
 俺達は確かに一度離れてしまったけれど、それは決して別れじゃない。また会う日までの、少しだけ長い『また明日』だ。

(そうだろ?ガッシュ)

 今では綺麗に修繕された窓枠を撫でると、太陽みたいな満面の笑顔が脳裏に蘇る。


「……がんばれ」


 小さな小さな声に込めたとてつもなく大きな思いが、欠片だけでも届くのなら。


「頑張れ、ガッシュ」


 ココロノチカラを使い切るまで、俺は何度だって言うよ。


「……頑張ろうな、ガッシュ」



 またいつか、会える日まで。




END
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