*短編*
□サンタクロース
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■設定
□異世界パラレルで、清麿とデュフォーは一流『サンタ』、ガッシュとゼオンは見習い『サンタ』です。
サンタは職種の一つで、クロネコヤ●ト的なお仕事です。
しかし「恵まれないもの全てにプレゼントを与えてくれる存在」と幼少時から絵本などで刷り込まれて育つので、そのように勘違いしたまま入社してくる者も多い(ガッシュもその内の一人)
□入社試験は面接オンリー
誰でも入社は出来ますが、実際にサンタになってプレゼントを配るには、筆記と実技の試験に合格しないと駄目です。
新人サンタにはそれぞれ先輩サンタが一人ずつ付き、勉強やサンタの心得など何から何まで全て教えてくれるという制度があります。
□全寮制
デュフォーと清麿は同じ部屋で、ガッシュとゼオンが同じ部屋です。
以上を踏まえた上でお読み下さいませv
*****
顔以外、全てにおいて正反対の双子の新人が入って来たという噂は耳にしていたけれど。
それがまさか自分の担当になるなんて、夢にも思っていなかった。
それも、『稀に見る落ちこぼれ』の方を任される事になるなんて―…
** サンタクロース **
風が窓を揺らす様を眺めながら、清麿は重い溜息を吐く。
手元には二枚の紙切れが置かれていて、そこには先日の試験の結果が記されていた。
一枚は見慣れたオール満点の結果表。
そして、もう一枚は…
「清麿ー、どうよ?落ちこぼれとは上手くやってんのかぁ?」
かけられた声は嘲りの色が濃くて、不快に眉を寄せながらそちらへと視線を移す。
「…落ちこぼれなんて名前の弟子、俺にはいねーよ」
「でも実際落ちこぼれだろーが。こないだの試験も駄目だったんだろ?」
「それは…ッ!!」
「師匠はトップ、弟子は下から一番目って、どんなコンビだよ?」
「天才君よぉ、自分ばっか勉強してないで、弟子にもちったぁ教えてやればぁ?」
(教えてないわけないだろうがッ!!)
そう思い切り言い返してやりたい。
けれど、結果が伴わなければ、それは何も教えていないのと同じ事だ。
俯き唇を噛み締めていると、不意に背後で大きな音がした。
「清麿に、何の用だ?」
「……デュフォー」
ドアを蹴り開けたのだろうか。頑丈な作りのロビーのドアには、デュフォーの靴の形がしっかりと残っていて。
それを見た彼らは一気に青ざめ、慌てて逃げ出して行った。
(……分からんでもないな)
顔立ちが酷く整っているせいか、彼が怒った時の迫力と言ったら、それはもう言葉に出来ない程なのだ。
自分に向けられたものでなくとも恐怖を覚える、その鋭い視線。
だけど。
「平気か?清麿」
こんな風に優しい瞳が出来る奴だって事を、俺は知っているから。
「…ん、サンキュな」
「気にするな。飯は食ったのか?」
「あぁいや、腹はすいてないから、スープだけ貰おうかと思って」
「食え」
「……腹はすいてな」
「食え。部屋へ運んでやるから、先に戻ってろ」
「あ、待っ…」
制止の言葉を聞き流して踵を返したその後ろ姿にコッソリ溜息を吐きながら、清麿は再びテーブルに視線を落とした。
筆記試験:評価E
実技試験:評価E
(…Eなんて判定、あったんだな…)
最早感心すら覚えるその成績の原因は、きっと。
『サンタの仕事は、幸せを運ぶ事であろう?』
瞼の裏で柔らかく笑う子供の姿に、清麿はガシガシと頭をかいた。
――サンタクロースは、いわばただの宅配屋だ。
決められた人物に決められた時間、決められた品物を届ける事が、俺達の仕事なんだ。
それを。
「…絵本の見過ぎなんだよ…ッ!!」
夢は届けるものであって、見るものではない。
幸せを届ける存在になんて、なれるわけない。
けれどそれは仕方のない事だし、俺達サンタはそうあるべきなのだ。
***
「ぬぅぅ、また清麿に怒られてしまうのだ…」
隣で激しく落ち込むガッシュに、ゼオンは自分の成績表をくしゃりと丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。
チラリと覗く評価は、S。
「だから言ってるだろ、俺の言う通りやってればそんなゴミみたいな評価取らずにすむって」
「しかし!私は自分に嘘を吐きたくないのだ!!」
潤む金色の瞳に深く溜息を吐く。
『どうしてもサンタになりたい』と聞かないガッシュに付き添って、自分も入寮したのはいいものの。
正直何の面白みもない仕事だ。
これならまだ家で二人でいた頃の方がずっと楽しかった。
(…それに…)
ここに来てから、ガッシュは落ち込んだり、泣いてばかりだ。
優し過ぎる弟には、きっと。
「…ガッシュ、お前は根本的にサンタには向かないんだよ」
「ぬぁッ!?何故そんな酷い事を言うのだー!!」
「事実だろうが」
「そんな事ないのだッ!!サンタの仕事は」
「プレゼントを届ける事。その一点のみだ」
「…ちが」
「違わないんだ!清麿にも言われただろうが!!」
「ッ…しかし、絵本で…」
「あれは作り物なんだよ!プレゼントの数だけ、それを待ってる人がいるんだ!!」
試験の内容は、およそ世間の『サンタクロース』とは正反対に位置するようなものだった。
大人にも子供にも。全てを無くした老人に、傷付き倒れた動物達。
その全てに平等に、プレゼントを届け幸せを与えるのだと。
作られた世界の中では、まるで神のような存在のサンタクロース。
けれど学んで行くうちに、あれは紛い物なのだという事がハッキリ分かった。
配達途中で誰かが倒れていようが、傷付いた動物がいようが、俺達はただプレゼントを届ければそれでいいのだ。
そんなものに構って時間に遅れようものなら、駄目サンタというレッテルを貼られるだけ。
(…現実なんて、いつだってそんなものだ)
受け入れていくしかないのだ。上手に生きるためには。
それなのに。
「…私が、自分のお金でプレゼントをあげる分には構わぬのであろう?」
「な…ッ!?」
「のう、最初から多くプレゼントを用意しておいて、道すがら会うものにプレゼントを渡す分には、問題ないであろ?」
絶対に、譲るつもりはないという強い瞳。
見慣れたその瞳に、ゼオンは苦笑しか出てこなかった。
「…分かったよ。お前はそんなサンタになればいい」
くしゃりと柔らかな髪を撫でると、ガッシュは嬉しそうに微笑んだ。
「ウヌ!!」
大丈夫。
お前は俺が、守るから。
その優しい気持ちが、決して汚されぬように。
***
「…で?」
「だから、今度のクリスマス、俺はガッシュと配達するぞ」
「……あのなぁゼオン、ガッシュは」
「受かったぞ」
「…は?」
「追試を受けさせた。その試験で、筆記、実技共に最高点を叩き出してな」
「…嘘だろ?」
目を丸くする俺に、ゼオンは一枚の紙切れを差し出した。
そこには確かに最高得点を出した際にだけ与えられる評価『SS』の文字と、ガッシュ・ベル――出来損ないの筈の、弟子の名前が書かれていた。
「…お前が受けたのか?ゼオン」
肩越しにその紙を見たデュフォーが静かに問うと、ゼオンはニヤリと口角をあげた。
「そんな事、するわけがないだろう?アレは元々頭は悪く無い」
「…まぁ、どうでもいいけど」
「……でも、ガッシュは…」
「とにかく、アイツは合格したんだ。お前は今度のクリスマスに、アイツを配達に出させると上に一言言ってくれればそれでいい」
「なッ…」
「それじゃ、失礼します、シショー」
乱暴に閉められたドアは鼻先一センチの距離で、ぐらりと傾いた身体をデュフォーが支えてくれた。
「大丈夫か?」
「ッ…デュフォー!!何だアイツッ!!何だあの態度!!何であんな偉そうなんだッ!!!」
「…さぁ、元からああだったし、さっきも一応挨拶はしてっただろ?」
「あんなの挨拶じゃないッ!!!」
――双子だから。
お互いを想う気持ちが強いのは分かるけど、でもアイツの担当は俺なのに。
その俺に一言もなしに勝手に追試を受けて、勝手に合格して、しかも最高得点とか取りやがって。
(これじゃ俺はなんの為に、アイツに色々教えたんだよ…ッ!?)
「……そうか、今度言っとく」
トーンの落ちたその声に、慌てて顔を上げる。
「ちがッ…今のはただの八つ当たりで、デュフォーは何も悪くないから!!…本当に、スマン」
「…ん、分かった」
柔らかい微笑みに、ほっと安堵の息を漏らす。
デュフォーは他人に何を言われても動じない事が多いのに、俺の言葉にだけ敏感に反応するのだ。
それは多少気を使わなくちゃならなくなるから、めんどくさいとも思うのだけれど。
気を許してくれているからこそなのだろう、と思うと、そんなめんどくささなど吹き飛ぶくらいに、嬉しい。