*短編*
□しあわせのカタチ
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■設定
□ガ清前提の清麿総受け
□王佐というよりも秘書麿
皆が清麿を狙ってる事の危機感と独占欲ゆえに、ガッシュは清麿の仕事場・生活場所共に自分の部屋のみと指定します。とはいえ強制ではない上に王の私室は無駄に広いので生活に不便は一切ありません。
しかし部屋から全く出ないので清麿はガッシュ意外と顔を合わせる事はほぼないです。
以上を踏まえた上でお読み下さいませv
*****
「何をしているッ!北東だ!ガッシュは二千キロ先にいるぞ!!」
「北東に二千キロ、了解いたしましたッ!!照準合わせます!!!」
戦場よろしく指揮を執るのは、王国軍の誇る司令塔、ゼオンだ。
それに即座に反応を返した兵の手には、その巨体に似合わぬ、可愛らしい小さな大豆。
「撃て」
「あ、あの、本当に宜しいんでしょうか…?」
「構わん、いいからさっさと撃て!!!」
「はいぃい!!」
ライフルによく似た狙撃用の武器に大豆を装填した兵士は再び照準を合わせながら、どうか当たりませんようにと強く願って引き金を引いた。
銃口から発射した瞬間に巨大化し、物凄い速さで飛んで行くそれを、魔物ならではの動体視力で見送りながら、キャンチョメとティオはバルコニーの手すりで足をぶらぶらと揺らしていた。
「…武器が豆だけっていうのがなぁ…」
「仕方ないわよ、それがルールなんだもの」
「とにかく、ガッシュからブローチを奪えばいいんだろ?」
「そうよ!そしたら『賞品』に…」
「『清麿』、ね」
いつもは心強い味方である魔物達が不気味な笑みを浮かべている頃、ガッシュは必死に魔力を押し殺しながら空を仰いでいた。
ああ、私は何処で間違えてしまったのだろうか、と。
***
今朝。清麿と二人で勤務表を確認していた際に、彼がポツリと漏らした言葉が全てもの始まりだった。
そう言えば今日って節分だよな、と。
それを聞いた瞬間に、昔清麿とウマゴンと三人で豆まきをしたのを思い出して、酷く懐かしく、また暖かい気持ちになったのだ。
勤務表を見れば、私の他にはティオにウマゴン、キャンチョメにブラゴまで休みが被っているではないか。
こんなに素敵な偶然を、当然ガッシュが見逃す筈もなく。
「今年は皆で『節分』をやらぬか?」
昔馴染みを集めての、ちょっとしたお遊びのつもりだった。
普段から世話をかけているから、たまには息抜きがてら皆で身体を動かそうと。
「メル!!」
ガッシュからの提案に、最初に乗ったのはウマゴンだった。子供の頃と何も変わらず、楽しそうに尻尾を振って了承してくれる。
「他の者はどうなのだ?次はいつこんな機会があるか分からぬから、せっかくなら皆で遊びたいのだ!」
王である自分が命じれば否という返事がない事は分かっている。けれど私達はそんな堅苦しい間柄の前に、友達なのだ。
しっかりはっきり自分の意思で、私と遊ぶと言ってほしかった。
けれども。
「何故俺が貴様の思いつきに付き合わねばならん。俺は御免だ」
「私も遠慮しておくわ。せっかくのお休みだし、買い物したいのよね。ウマゴンとキャンチョメと3人で遊んだら?」
「ええー!?僕だって予定がぁ」
「アンタの用事なんて知らないわよ。さっさとやって、ぱっぱと終わらせたらいいじゃない」
「な、何なのだそのやる気の無さは!!友達が遊ぼうと言っておるのだぞ!?喜んで遊んでくれても良いではないか!!!」
「毎日毎日顔突き合わせてるんだから、休みの日くらい好きにさせなさいよ!あんたのお守りにはキャンチョメを置いておくから」
「ぬぁあああ!お守りとは何なのだ!!私はただ一緒に遊ぼうと…」
「俺は帰るぞ」
「ま、待つのだブラゴッ!!一緒に遊んでくれても良いではないかッ!!!」
「大声出さないでよ!!煩いわねぇ」
「その言い草はあんまりではないかッ!?お主私を何だと思ってるのだ!!!」
「子供だと思ってるわよ。ものすっごく手のかかる」
「ぬぉおおおお!!!!」
ガッシュが思い切り地団駄を踏んだ時、カチャリとドアが開かれた。
ノックも無しに王であるガッシュの部屋を開ける人物は限られている。それに加え、開けられたのが寝室へと繋がる扉だとすれば、顔を見なくても誰だか分かるというものだろう。
「お前ら、何騒いで」
「きゃぁああ!!きよまろーッ!!!!」
「うわぁッ!?」
勢いよく飛びついてきたティオを受け止めきれずに、清麿は仰向けに倒れた。
まるで押し倒されているかのような格好に、その場の全員が慌てて駆け寄ってくる。
「清麿、大丈夫!?」
「あぁ…って、久し振りだなぁ!キャンチョメ。ブラゴとウマゴンも、久し振り。皆元気そうで良かったよ」
「メル!!」
「うん、久しぶ」
「うわぁんゴメン、清麿!!大丈夫!?」
「ああ、俺は別に…ティオこそ大丈夫か?」
「本当にごめんなさいー!!!嬉しくて、つい…」
「大丈夫だって、な?」
久し振りに見る清麿は相変わらず綺麗で、優しくて。
思わず抱き締めようと伸ばした手を、ガッシュによって阻まれる。
「清麿!!部屋から出るなと言ったではないか!!」
「いいじゃねぇか別に。一人で書類ばっか見てても暇なんだよ」
「昔は一人で本ばかり読んでおったくせに」
「だってせっかく魔界に来たのに、俺城から一歩も出た事ないんだぜ?そりゃ、人間が魔界にいるなんてヤバイのも分かるけどさ」
「違うのよ清麿!!ガッシュはただ…」
「ぬぁああ!!と、とにかく清麿は戻るのだ!!!」
「あーハイハイ。それじゃ皆またな、今度お茶でも飲みにきてくれよな」
ひらひらと手を振る清麿をドアの向こうへと追いやり、ガッシュは慌てて扉を閉めた。
振り返れば当然のように、見つめてくる瞳は非難の色に満ち溢れていて。
「ガッシュ!!いい加減に清麿を一人占めするの辞めなさいよ!!私だって清麿に会いたいんだから!!」
「そうだよ!!僕だって清麿に話したい事がいっぱいあるんだからな!!」
「ぬぅぅ…き、きよまろは、私のパートナ」
「大体可哀想じゃない!!ずっと室内に閉じ込めてたんじゃ、清麿だって参っちゃうわよ!?」
「そうだそうだ!!城内なら危険だって無いんだし、何なら僕がボディガードしてあげたっていいんだぜ?」
「アンタそれ清麿とデートしたいだけじゃないの!駄目よ、駄目ダメ!!清麿なら私が守ってあげるから!!」
――これだから、清麿を外には出せぬのだ。
清麿は私のものだという事は皆分かっている筈なのに、手を引くどころか奪おうとする者ばかりだから。
そういった事にてんで疎い清麿をうかうかと自由にさせておける程の度胸も度量も、残念ながらガッシュは持ち合わせていない。
愛されている自信はあるし、誰よりも愛している自信だってある。
けれど万が一、億が一、清麿の心が揺らぐような事があったら。
清麿の幸せは私の幸せだけれど、きっとその時だけは、清麿と同じようには喜べないから。
「そ、それより『節分』をやらぬか?鬼を決めての、豆まきをするのだぞ!」
「そんなのっ」
「いいだろう」
誰よりも意外なブラゴの即答に、誘ったガッシュを含める全員が目を丸くした。
皆の視線を気にする事なく、ブラゴはいつも通りの淡々とした口調で話を続ける。
「ただし条件がある」
「ぬ…条件、とな?」
「オニは貴様だ、ガッシュ。そして貴様を倒したものには『賞品』を出せ」
「ぬぅう?節分の豆まきはの、別に鬼を退治しなくとも…」
「…いいじゃない、それ。それなら私も参加してあげる」
「僕も!」
「うぬ?皆そんなに欲しいものがあるのかの?別に構わぬが、私のお給料で買えるものしか駄目だぞ」
「いいんだな?…この条件を、飲むんだな?」
「ウヌ!どうせお金など持っていても使う事はないしの。倒されぬように頑張るのだ!」
満面の笑みで胸を張ったガッシュに、ティオがキラリと瞳を輝かせた。
「決まりね。…私の『賞品』は、清麿でいいわ」
「僕もそれでいいよ」
「…そういう事だ」
そう、色恋沙汰に鈍感なのは、何も清麿に限った話ではないのである。
ようやく全てを悟ったガッシュが泣き叫んだのは、それから約10秒後のこと。