*短編*

□きらめく夜空に、永久の願いを
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「…なぁガッシュ、お前何やってるんだ?」
「ぬ?」

ティッシュの塊にマジックペンで顔を描きながら、ガッシュは不思議そうに目を丸くした。
それはそうだろう、ガッシュの持っているソレは、誰がどう見たって。

「見たら分かるであろ?これはただのティッシュではなく、」
「てるてる坊主だろ。俺はそんな事聞いてんじゃねぇよ」
「しかし今…」
「何で今そんなもの作ってんのかって聞いてるんだ。明日遊ぶ約束でもしてるのか?」

(…それにしても、これは流石にやり過ぎじゃないか?)

空になったティッシュ箱5箱の横には、もはやただのゴミにしか見えない、てるてる坊主の山。
いくら大切な約束があったとしても、ここまで作り過ぎたら怒られる事くらい分からないものだろうか。

「約束などしておらぬぞ」
「…はぁあ!?お前、じゃあ何のためにそれだけのティッシュを無駄にっ…」
「無駄じゃないのだ!てるてる坊主殿を作る為なのだ!!」
「だから、そのてるてる坊主が無駄だって言っ」
「無駄ではないのだっ!!てるてる坊主殿には、絶対に絶対に明日を晴れにしてもらわねばならぬから、たくさん作っただけなのだ!!」
「だーかーら、何で明日が晴れじゃなきゃいけないんだよ?」
「…明日が、…から」
「は?」

俯き加減に呟かれた声は、くぐもっていてよく聞こえない。
仕方なくてるてる坊主の山をかきわけて、ガッシュの近くに腰を下ろすと。

「明日が、七夕だから…なのだ」

大した事とも思えない内容を、ガッシュはどこか苦しそうに言ってのけたのだった。



**きらめく夜空に、永久の願いを**



――そこまで頑張って、天の川なんて見たいもんかなぁ…

無意識に漏らしてしまった溜息に、ガッシュは強く拳を握り締めた。

「っ、清麿!!明日は絶対にぜったいに晴れでなければならぬのだ!!織姫殿と彦星殿は、明日しか会えぬのだぞ!?」
「……あー…そういう事か」
「お主だって分かるであろう!?ずっと一緒にいたい相手なのに、年に一度しか…しかも雨が降ったら会えぬというではないか!!そんなの…そんなの可哀想過ぎるのだ!!」

必死に訴えてくるその表情は本当に辛そうで、清麿は僅かに眉を顰めた。

――年に一度だけでも、会えればイイじゃないか。
俺とお前なんか、いつかどんなに願ったって二度と会えなくなっちまうんだぞ。

なんて、一瞬だけ浮かんだ見当違いな嫉妬にふるふると頭を振り、そうだな、と金色の頭を撫でてやれば、ガッシュはほんの少しだけ、その表情を柔らかくした。

「『しゅうかんてんきよほう』というものによれば、明日は雨らしいのだが、私はそんなの嫌なのだ!どうしても、どうしても二人を会わせてあげたくて…」
「それで、てるてる坊主にお願いしてたのか?」
「うぬ。てるてる坊主殿は、この間清麿と植物園に行く時も、雨を降らさないでいてくれたであろう?」
「ま、あの時は曇りだったけどな」
「それなのだ!きっと、1人のてるてる坊主殿が頑張れる力は決まっておるのではないかと思っての。ほら、私達も二人だけでは出来ぬ事があった時など、仲間の力を借りるであろう?」
「…あのな、ガッシュ?それとこれとは」
「これだけたくさん仲間がいたら、きっと大丈夫なのだ!!てるてる坊主殿が、絶対明日を晴れにしてくれるのだ!!」

キッパリと断言しながらもまだ不安なのか、小さな掌は、キツく握られたままだった。

きっとガッシュは、七夕の作り話を心底信じきっていて。
明日の雨の予報に酷く胸を痛めて、拙いながらも一生懸命、二人が会える方法を模索したんだろう。

俺の目にはただのゴミの山にしか映らないてるてる坊主の山だが、ガッシュから見たら二人を幸せにしてくれる救世主のようなもので。

――きっと真剣に、丁寧に。
心を込めて作ったんだろう。

綺麗な丸とは言い難い歪な形のてるてる坊主には、一つ一つ違った顔が描かれていた。
山を成すだけの大量のてるてる坊主の全てが、少しずつ違う表情で微笑んでいる。

あぁそうだ、出会った時だって。
ゴミみたいにしか見えなかったこの世界を、コイツはキラキラしたものに変えてくれたんだっけ。

――仕方ねぇなぁ…

「…お袋に言って、紐か何か貰って来い」
「ぬ?」
「吊るしてやるよ、コイツ等」
「…しかし、これ全部は流石に無理じゃないかの?」
「仲間なんだろ?コイツ等みんな。それなら、仲間外れがいたら可哀想だろうが」
「……ウヌ、うぬっ!!仲間外れは駄目だのう!!」
「おわっ!!」

勢い良く飛びついてきたガッシュを支えきれず、強かに背中を打ちつけた瞬間。

「…う、ぎゃぁあああああ!!!!」

頭上から降り注ぐ歪んだ笑顔が、清麿の視界を白く染めあげたのだった。


 
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