*episode.over*

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episode.02


新しい王が即位して20年、クレイの生活は何一つ変わっていなかった。

「…レイグラドン」

ポツリと呪文を呟いた瞬間、手にしていた桃色の花は鮮やかな藍色へと変化した。

その花をテーブルの上へ置き、自らの手を暫く見つめてみるが、特に何の変化も見られない。

「……今日も、駄目か……」

小さく嘆息すると、古くなった扉に手をかざす。

「レイグラドン」

強烈な閃光に視力を奪われながら、太陽光とはこんな光だろうかと逡巡する。


――あぁ、早く

一刻も早く、その時が来ないだろうか…


クレイは、『創造』の魔力を持つ一族の末裔だった。

魂の移し変えを行う事で永遠の命を与える事の出来るこの魔力は、最初は『奇跡の魔力』と呼ばれ、ご先祖様達は各地の実力者の為にその力を使ったという。

けれど大き過ぎるその力は数多の争いを呼び、いつしか『呪われた魔力』と忌み嫌われるようになったのだとか。

街を追われ、国を追われたご先祖様達はこの森に辿り着き、持てる魔力の全てを使ってそこに結界を貼った。
常に霧に覆われ、一度足を踏み入れれば二度と出る事は叶わないと噂のあった、この森に。

外界との接触の一切を絶つ事で平和に暮らしたご先祖様達も亡くなり、残るは俺一人きり。

一族が滅べば、結界も消滅するという話だけれど。


――結界なんて、いらなかったのに。


消滅を望む自分には、こんなもの邪魔物以外の何物でもない。
平和に何千年もの時を独りで生きるより、一瞬で終わらせてくれた方が余程有り難いのだから。


暗い森の中、クレイは目的もなく歩き続ける。
鬱蒼と生い茂る木々は太陽の光を完全に遮断し、その片鱗すら頭上に望む事は出来ない。
それらが結界のせいだと教えられたのは、髪が腰ほどまで伸びた頃だったろうか。

光の射さないこんな森で生き永らえて、一体何の意味があるというんだ。


使う程に寿命が縮まると言われるこの魔力を、どれだけ酷使してきただろう?

未だに何の変化も見られない身体に、何度絶望した事だろう?


丈夫な魔物の身体など、無用の長物でしかないというのに。


――あぁ、早く。

『その日』が、来ないだろうか。


「…………?」

真っ暗な森の中ほどに、赤い光が見えた。

いつもはただただ、暗いだけなのに。

好奇心のままに近付くと、宙に浮いた赤い光は、頼りなさげに揺れて。

「…何…だ……?これ…」


手を触れた、瞬間。


世界が


回った



 
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