*episode.over*
□episode.over
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大学の研究室で、清麿はとっくに読み終えた資料を再度めくった。
アンサー・トーカーとしての能力は徐々に薄れて行き、20歳を過ぎる頃には綺麗さっぱり無くなっていた。
全ての事柄に置いて瞬時に正しい答えを導き出せるという、まるで魔法のようなあの能力を。
(…俺、本当に持ってたんだっけ?)
数字とアルファベットの羅列をぼんやりと眺めていると、あの頃何より大切だった魔本も、共に戦った魔物の子供達でさえ、まるで全てが夢物語のように思えてくる。
けれど確かにあの戦いで知り合った人達との交流は途切れていないし、ガッシュからの手紙も写真も未だ消えずにある。
夢なんかじゃないのだと、確かな現実なのだと実感する度に、強く強く思うのは。
――戻りたい、という事。
あの戦いの日々を思い出せば、辛いことの方が圧倒的に多いのに。
何で、こんなにも戻りたいと思うんだろう?
「高嶺、コーヒー」
「…あぁ、ありがとう」
不意に差し出された白いマグカップを受け取り、一口飲んでからまた資料に目を落とす。
――本当は、分かってるんだ。
戻りたい理由なんて、たった一つしかない事ぐらい。
(ガッシュ……)
応えはないと知りながら、一体何度こうやって呼びかけたんだろう。
会いたい
抱き締めたい
笑顔が見たい
――最初から、離れる事は分かってたのに。
いつの間にか膨らんでいた気持ちは、20年経った今も消えない。
もうこれは、病気と言っても過言ではない様な気さえする。
無邪気な笑顔を見る度に湧き上がる黒い感情を、どれだけ責めただろう?
どれだけ、我慢してきたんだろう?
せめて……
頭に浮かんだ考えを掻き消すように、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。
今更何を考えたって、望んだって、アイツが帰って来る事なんて無いんだ。
――時間は決して戻らない。
それが、この20年頑張って頑張って、辿り着いた結論なのだから。