頂き物・捧げ物

□立春
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 昨日は節分。季節を分ける日。
 今日は立春。暦で春になる日。
 俺の卒業式まで、あと四週間。
 出会ってから一年。春夏秋冬を駆け抜けて、また春が巡り来る。


『立春』


 麗らかな日光が窓から差し込んでくる。ガラスの向こうはまだ気温は低いだろうが、日差しは心地よく部屋を暖めていた。ほんの二ヶ月程前までは争いの日々に身を置いていたけれど、今はそれを忘れ去ったように平穏な毎日が続いている。
 人間界での楽しみを出来る限り味わわせてやりたいと、最近はまったく気にしていなかった節分の豆まきをしてみた。ガッシュは昨日のあまりの豆をポリポリ食べながら不思議そうに聞いてくる。


「のう清麿、どうして節分には豆まきをするのだ?」

「豆まきか? あー……節分ってな、季節を分けるって字を書くんだよ。今日は立春って言ってな、今日から春なんだ。それで、昔から季節の変わり目には鬼が現れるって言われてたんだ」

「おに……とはどういうものなのだ? 悪さをするのか?」

「悪いものの塊を鬼と呼ぶんだよ。昔はな、病気とか怪我を鬼のせいだって信じられていた。だから鬼を追い払うために豆まきをするんだ。何で豆なのかって言うと、言葉遊びみたいなもんだな」

「言葉遊び?」

「豆は『魔滅』に通ずる、だとさ」


 手元にあった紙にさらさらと神経質そうな字を書き付ける。わかったのかわからないのか、頭をひねる子供に笑みがこぼれた。魔を滅する、だとこの魔物も滅することになるのだろうか。そういえば鬼と同じく角もあったはずだ。そんな馬鹿げたことをぼんやりと考える。

 ずっと、こうしていたい。

 まだまだ楽しい行事はたくさんある。正月、節分、バレンタイン、雛祭り、ホワイトデー、エイプリルフール、花まつり、端午の節句、数え上げればキリがないほどに。宗派も何もかもごちゃ混ぜで、だからこそ多種多様な行事がある。せっかく日本で過ごせるのだからすべて体感させてやりたかった。

 それでも春が来てしまった。


「おお! 清麿、あそこに花が咲いておるのだ!」

「ああ、梅の花だな」

「一緒に見に行こうぞ!」


 ころころ表情と興味の対象が変わっていく。ぐいぐいと腕を引っ張られて渋々腰を上げた。せめて今だけはこの笑顔と共にあることを許してほしい。

 後四週間。それで俺たちはどんなに頑張っても会えない場所へ引き離される。

――春が別れを連れてくる。
(どうかお願い、いなくならないで、期限付きの太陽。)

End.
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