頂き物・捧げ物
□Black Joke
1ページ/3ページ
「本当にアンタは全然わかってないんだから! もういい、じゃあね」
「う、ウヌ……」
遠ざかる足音を聞きながら、俯いて溜め息を吐いている。がっくりと肩を落として眉を下げて、落ち込んでいるのが丸分かりである。
またフラれてしまったようだ。確かまだ付き合って一ヶ月ほど。自他共に認める奥手なアイツは、手も繋げないままだった。
『女心がわかってないわ』
告白されて断れなくて付き合って、そう言われてフラれる。不本意だろうが、高校に入ってからもうずっとそんなパターンが続いていた。
(断れないのが、ダメなんだよ)
だからいつもティオに説教されて俺に泣き付く羽目になる。少しは懲りればいいのに、なんて思うこともあるけれど、まあこれはこれで楽しい。
――ほら、涙目のガッシュが駆けてくる。
「清麿! 聞いてくれ、またフラれたのだーっ」
「またかよ」
「またなのだ……女心とは何だ? 難しすぎて私にはわからぬ! 教えてくれ! 清麿にならわかるであろう?」
泣き喚きながら詰め寄るガッシュから僅かに距離を置く。涙と鼻水でぐずぐずになった顔があまりにもおかしくてうっかり笑ってしまった。
女心なんて本人にさえわからないのだからわからなくて当然だし、むしろ女心に精通しているガッシュなんて嫌だと誰もが言うだろう。
ただ、いかんせんコイツは鈍感すぎるのだ。
「ああもう、とりあえず泣き止んで顔を拭け。高校生だろ、おまえは」
「ウヌウ……」
「ほれ」
ティッシュを手渡すと素直に顔を拭く。その素直さは美点ではあるがフラれる原因にだってなるのだ。
「そもそもだな、女心とか言う前に、好きか聞かれてばか正直にわからぬ! なんて答えるからフラれるんだよ」
「そ、それは……だってわからないものはわからぬし……」
「俺は断れないからって、毎回毎回付き合ってはフラれるような真似をするなって言ってんだよ。告白されたときにそれを言ったらまだマシだろうに」
「ヌ……」
しゅんとしょげ返った頭を軽く撫でる。腹が立つことにコイツは俺よりも背が高い。それでも垂れた耳と尻尾が見える気がした。
「まあ、さ。おまえがへこんでるのは似合わねーし、ブリ奢ってやるから元気出せよ」
「……きよまろー!」
「寄るな! 鼻水がつく!」
「ひどいのだー」
ころころと表情を変えているが、きちんと立ち直ったようだ。しっかり笑えている。落ち込んでいたことすら忘れてしまったみたいに。
周りのクラスメイトはそんな様子を生暖かく見守ってくれている。ほとんど恒例行事になったようで笑われることはあっても負の感情を受けることはない。いいメンバーに恵まれたものだ。
「あ、そうだ! 清麿、この前の模試で全国一位だったらしいな」
「ああ」
「お祝いするから、今週末、家に泊まりに来ぬか?」
「ん、わかった。楽しみにしとく」
イベントや祝い事が大好きなコイツは何かしら見つけては騒ぐ。俺もそういうのは何だかんだ言っても嫌いじゃない。ガッシュとの付き合いは短いけれど、どこか懐かしいような感じがして、そばにいると落ち着ける。
ああ、心が踊る。これから一週間後。ほぼ毎日一緒にいるのに、泊まりに行く日がとても楽しみだった。