紅の兎と白い子犬

□Over The Rainbow
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 それは、とある昼下がりのこと

「あ…」

廊下を歩いていたアレンは
肩に乗っていたティムキャンピーにしか聞こえぬほどの声で
一言呟いて立ち止まった

「雨だ…」

そっと触れた窓ガラスの向こう側では
ポツリ、ポツリと、小さな雨粒が降り注いでいる

「…と、言うわけですから…ん?」

随分と先を歩き、ふと言葉を止め振り返れば
自分の半歩後ろを歩いていたはずのアレンが
忽然と姿を消している

慌てて完全に後ろに向き直れば
すぐにその姿を捉えることは出来たものの
その意識は完全に窓の外に向いており
先ほどまでの自分の話しなど
まるで耳に入っていない事など明白だ

さらには、彼が立ち止まった事にも気づかず
この1M程度の距離を、不本意にも
独り言を言いながら歩いてしまったことに
否応なく気づかされたリンクは
恥かしさも相成って、苛立った声を投げつける

「アレン・ウォーカー!!」

「わっ!えっなにっ!?」

叫ぶまでに至るリンクの心境など
知る由もないアレンにしてみれば
いきなりとも取れる怒声
思わずビクンと肩を跳ねさせ
慌てて窓から視線を移した

「それは此方の台詞です!何をしているんですか!」

顔を真っ赤にして怒っているリンクに
何が起こったのだと言わんばかりの表情で
軽く小首を傾げながら
アレンは窓の外を指指してみせる

「いや…ほら、雨」

「…は?」

「雨が…降ってきたな〜…って」

アレンの言葉を聞くと、いつもは冷たい印象を受けるほど
冷静で整ったリンクの口元が、ヒクリと引きつった

「…それだけ、ですか?」

「…それだけ、だけど…?」

しばらくの沈黙を挟むと、リンクは
これでもかというほどに深いため息をつく

「雨くらい降っても不思議は無いでしょう…
 早く部屋に戻りますよ!」

そう言うと、踵を返すリンクの後を
追うように歩き出したアレンは
横目でもう一度、窓の外を見つめる

彼は言わなかった

その雨に、先ほど任務を終えて帰ると
嬉しそうにゴーレムで報告をしてきた人物を
思い浮かべていた事を…
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