白王子と黒姫

□アイノカタチ
2ページ/8ページ


 ドン…

ノックではなく、まるでそのまま倒れこむかのように
両手に作った握りこぶしを
その扉に叩きつける

思い切り叩きつけたつもりが
身体中の脱力感のせいで、思うように力が入らず
ただ押し当てたような、その程度にしかならなかった

眠っていたら、気づかないかもしれない
無理に起してしまうこともない
そんな迷惑をかけれない
そう思いながら

早く出てきてほしい
その顔を見せてほしい

…この孤独から救ってほしい

願うように、祈るように
待ち望んだ

静寂が、とてつもなく長く感じた
何かに追い詰められているような
そんな感覚

この扉が開かなければ
後ろからくる魔物に、食い殺されてしまう
そんな感覚

恐怖に耐え切れず、叫び出しそうな衝動に駆られたその時

急に扉は開かれる
それに寄りかかるようにしていたアレンは
そのまま扉に引かれるように倒れこんだ

「…なにしてやがる」

倒れかけたアレンの身体を、細くもしっかりとした腕が
受け止め支えてくれる

「神田…」

その声を聞いた瞬間、その腕に触れた瞬間
その瞳を見つめた瞬間、その瞳に自分が映った瞬間

アレンは泣き出してしまいそうだった

彼のただならぬ様子に、ユウは怪訝そうな表情をしている
まだ混乱していそうなアレンに、軽くため息をつき
彼の身体を部屋に入れると、静かにドアを閉めた

「とりあえず、しっかり立てよ」

「あ…すみません…」

ユウの腕から慌てて離れたのもつかの間
その場にストンと座り込んでしまう

「…おい」

「あ…はは、なんか、ちょっと疲れたみたいです…」

そういって俯くアレンの瞳には
いつものような輝きが見られない

光を失い、まるで迷子のように
途方にくれたように、闇に泳いでいる

2人の間に、長い沈黙が訪れる

何も聞こうとはしないユウ
何を話そうともしないアレン

ベッドに腰を下ろしたユウは
アレンを見つめずに視線を落としたまま

その場に座り込んだままのアレンは
その視線を、目的もなく泳がせていた
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ