白王子と黒姫

□僕のモノ
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「どうして…ラビが怪我して、キミの口の中に血の味が残るんです…?」

声のトーンが落ちたアレンに、ユウは怪訝そうな顔をした

「…?あいつが毒なんかくらうから、仕方なく吸い出した…」

素直すぎるその返答に、アレンのこめかみに小さく青筋が走る

「へぇ…そのわりには、口元には血がついてないんですが…?」

ニコリと顔は笑っているが、なにやらその目元には影が落ち
とてつもない迫力をその背後に背負っている

わけもわからず、思わずドアに背をドンとぶつけ
ユウはしどろもどろ、事実を語る
それが、アレンの気をさらに逆撫でするということを
悪気が一切ない彼には予測することができなかった

「それじゃ吸血鬼みたいだからって…舐めとられ…」

その瞬間、微笑んだアレンから、何かがプチンと切れる音がしたのが
ユウにも聞こえたように錯覚するほど
その時から、アレンには明らかに
呼び起こしてはいけないモノが憑依していた

「舐めとられ…へぇ…そうですか…」

背筋も凍りつきそうな静けさを含んだアレンの声

「な…しょうがねぇだろうが!あのままじゃ死んでたかもしれねぇんだぞ!」

気を抜いたら震えだしそうな身体に爪を立て
ユウは必死の抵抗を見せた

「百歩譲って毒を吸い出したのはいいとしても、舐めとられたのまでは
 許せませんね…」

そう言って、改めて顔を上げたアレンは
『借金』の言葉を聞いた時よりもずっと
恐ろしい顔を形どっていた

あまりの形相に、意思とは無関係に足の力が抜けて
ユウはドアに背をつけたまま、ずるずると尻もちをついてしまう

「神田…キミにはお仕置きが必要みたいですね…」

見下すように笑みを浮かべるアレンに
ユウの額からは、一筋の冷や汗が流れ落ちた

「おい…モヤシ…」

「アレンです、まずはそこからですね…」

ひょいとしゃがみ込んだかと思うと、アレンは
ユウの顎に手を添え、グイと自分の方を向かせる

「アレンって呼んで、神田…」

「な…!」

かぁと顔を赤らめ、抵抗を見せるが
顎に添えた手に、ぐっと力がこもり
小さな痛みに、顔を歪ませた

「口答えは聞きたくありません、ホラ、言って…」

口元には、相変わらずの笑みを浮かべているが
まるで蛇のような光を帯びた瞳は、少しも笑ってなどいない
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