紅の兎と白い子犬

□しなやかな腕の祈り
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教団内を必死に探し回り、その姿をようやく捉えたのは
この戦争での被害者を、弔うために設けられた
沢山の花が添えられた石碑の前だった

殉職した団員は、家族の元に帰ることはできない
だからこうして、教団内で、静かに弔われるのだ

それだけに止まらず、教団で行われた実験による
闇に葬られた被害者や
アクマの攻撃によって命を落とした
全ての人間の魂に、寂しい思いをさせることのないように…
そんな願いを込めて、この石碑は作られている

そんな場所に、ラビは一人佇んでいた

「…おやすみ」

そう小さく呟くと、自分の頭に飾られていた
シロツメクサの花飾りを、そっと石碑に捧げる

かける言葉が見つからない
その背中は、あまりにも哀しげだった

どうしていいのかわからず、立ちつくしていると
ラビがくるりと振り返り、アレンの存在に気づく

「あ…アレン、いつからいたんさ」

途端、慌てるように作られた笑顔は
まるで仮面のようだった

「あ〜…えっと、今、今です…ラビが帰ったって聞いて…」

「そっか」

口ごもるアレンの頭を、くしゃくしゃと撫でて
ラビはいつものように笑う

「んじゃもっと明るいとこいくさ、アレンの顔よく見えねーし」

いつものような軽い口調
優しくて大きくて暖かい手

任務で何かあったことは間違いがないのに

自分の手を引いて、前を歩くその足取りは
とてもしっかりとしている

(ラビは…強いんだな…)

力強く、たくましく、アレンの手を握るラビの手
自分の手が、なんだかとても頼りなくさえ見えるほどに…

(すごいな、ラビって…)

そうやって彼は、いろんなことを乗り越えてきたのだろうと
自分とは違うのだと、彼は強いのだと

この時アレンは、そう信じて疑いもしなかった
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