紅の兎と白い子犬

□Over The Rainbow
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 天から生まれ落ちた小さな雨粒は
いくらも時を待たずに、土を抉るほどの
土砂降りへと姿を変えていた

「うえ〜…最悪…」

トレードマークであるバンダナも
雨を思い切り吸い込み、重そうな色で
彼の首元に張り付いている

支えを無くした緋色の髪は
バサリとおろされ、こちらも雨を吸い込み
頬や首にペタリと張り付き、それを滴らせていた

記録について、もう少し調べ物があるというブックマンを残し
ラビは帰路を急ぐ途中である

それと言うのも、今から2時間43分36秒前
本当は1分1秒でも離れていたくない
愛しいあの子に、任務の終わりと
大体の教団に帰れるであろう時間を
無線ゴーレムで告げたところなのだ

隣に監査官がいたためだろう
口では、喜んだ言葉を伝えてはくれなかったけれど
彼の声色、表情、全ては記録にあるがまま
ゴーレムから聞こえる声だけで
少しテレくさそうな表情も
本当は、帰りを心待ちにしてくれていることも
全て伝わってきた

びしょ濡れで不快極まりない今でさえ
その時を思うと自然と口元が綻んでくる

だからこそ、急がなければ
彼から離れて、97時間21分52秒…53秒…4…

早く、早く会いたい

「アレン…」

額を伝ってくる雨水を、グイっと手の甲で拭えば
無意識に唇から零れた名前を噛み締めた

「ちょっち視界悪ぃけど…行くか、伸っ!!」

雨で滑る槌から、振り落とされないように
ぐっと力を込める
土砂降りの中、目を凝らし
思うのは、愛しいあの子のことばかり…
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