紅の兎と白い子犬

□Over The Rainbow
3ページ/12ページ


 いよいよ強くなる雨に、アレンの不安は募るばかりだ

「…どうしたのです、先ほどから…」

頬杖をついたまま、ボンヤリとしているアレンの耳に
呆れたような、それでいてどこか心配そうな
リンクの声が届く

「え…?ううん…なんでも…」

監視中である身で、誰かに想いを寄せていることが知れたら
その人物までも、監視の対象として巻き込んでしまうかもしれない

そんな不安が、アレンの口を頑なに閉ざさせていた

薄々、ガラス玉のようなアレンの瞳の裏側に
誰が映っているのかを感じながら
小さなため息混じりに、リンクははぐらかしてみせる

「まったく…どうせまたお腹でも空いたのでしょう?」

いつもなら、目を輝かせて反応するであろう言葉なのに
今まで自分が考えていたことと
全く繋がりのないその台詞が脳に染み渡るまで
アレンの反応とは思えない程の時間を有してしまった

「へ…?あ…そう!そうなんですよ!」

とってつけたような彼の反応に
リンクはやれやれ、言いたげに視線を逸らす

アレンの意識を『彼』から逸らそうと発した言葉で
アレンがどれ程までに『彼』に心奪われているかを
測る事になってしまうとは

リンクは自らの失態に、小さな苛立ちを感じていた

「お腹空いたな〜…リンクのお菓子食べたいな〜…」

椅子の背もたれにしがみつくような格好で
子供のように足をパタつかせながら
アレンはリンクの様子を伺うように見つめる

(それほど空腹でもないくせに…)

わかっている、わかっているというのに
こういう時のアレンは『ずるい』の一言である

上目使いの瞳を、なるべく見ないようにしてみるも
今回ばかりは、そんな話題を持ちかけてしまった手前
無視を決め込むわけにもいかない

「リ〜ンク〜?」

呼びかけられ、観念したように
リンクは読んでいた本をパタンと閉じた

「いいですか?大人しく待っているんですよ!?」

「は〜〜いっ」

満面の笑みで右手を上げるアレンは
本当に子供のようだった

わかっている、そう、これもわかっているのだ
こういう時の返事など、口だけだというのに

気づかぬ振りで部屋を出る
子供のようなあの笑顔を思い出しながら

(ただの子供ではありませんか…長官…私はいつまで…)

胸の中の小さな疑問を、自ら遮るように
リンクは調理場を目指して歩いた
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ