赤い兎と黒いネコ

□はちみつKISS
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コンコン

軽くノックをして、返事を待たずに部屋に入る

「ユウ、大丈夫か?」

ベッドから上半身を起し、ユウは咳き込んだ

「うつるから近寄んなっつっただろうが…」

少々熱っぽいのか、ほんのりと赤い頬に
咳き込んで苦しそうな息遣いに、少し潤んだ瞳

たまらなく魅力的ではあるが、本人が辛そうなのがなんとも言えない

「ほら、これ」

「…?」

差し出されたそれを見て、ユウは頭上に『?』を浮かべる

「ユウは蕎麦ばっかで栄養とらねぇから風邪なんかひくんさ」

「うるせぇよ…」

ラビの言葉に反論を返しながらも、ユウはそれを受け取る
白いマグカップを両手に取れば、じんわりと暖かい
湯気と共に、鼻を掠めていく優しい甘さ

「ハチミツ、栄養あるし風邪に効くと思う」

マグカップとにらめっこしていたユウに
ラビはニコリと微笑みながら説明をした

甘い物が苦手なユウは、少しの間それを口にするのを躊躇っていた
しかし、ハチミツが喉によいのも有名な話で
咳き込んで痛んだ喉には、少し効果があるような気にはなった
一口、それを口に運ぶ

「どぉ?」

「…飲める」

砂糖やチョコレート等、菓子類の甘さとは異なる自然な甘み
予想以上に甘すぎないこともあり
ユウはそれを、少しづつ口に運ぶことができた
じわりと身体が温まっていき、傷めた喉を優しく潤していく

少しづつでも、文句を言わず口に運んでいくユウに
ラビは満足そうな笑みを浮かべた

「よかった、ちゃんと飲んでくれて」

おいしい、だとか、ありがとう、だとか
そういうことは決して口にはださないユウではあるが
黙って文句を言わずに、好意を受け入れること
それが何よりの、彼の感謝の行動だった
もちろんラビにも、その意思は伝わっている

「飲み終わったさ?」

何気ないアイコンタクトに気がつき、ラビが声をかける

「…あぁ」

「ん、片付けてくるから貸して」

見れば、マグカップはキレイに空になっている

(甘いの好きじゃねぇのに…)

マグカップに残る甘い香り、ラビは思わず口元をほころばせた

「片づけくらい自分で…」

ベッドから降りようとするユウを、ラビは慌てて制止する

「いいから、ユウは寝てろって」

マグカップを持って部屋を出る
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