すき

□.
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(さ く ら)




巴衛様、そんな顔しないで。私がいるじゃない。
だから、大丈夫よ。



春は桜が美しい。
日差しにまどろむ私に彼がやさしく呟く。ああ、この人は怖い顔してるだけで実際はそうじゃないのね、ってわかったら親近感が湧いて、みるみるうちに好きになってた。
恋のきっかけなんてみんな似たようなものだと思う。



(恋愛経験はそう豊富じゃないから定かではないけど。)




でも恋をするときれいになるっていうのは多分本当。
だってこんなに幸せな思いを今まで生きてきた中で経験したことがないし、もっともっと可愛くなりたいって努力できるの。




「なあ、お前は綺麗だな。」




ほら。こんな言葉一つで天にも昇る気分なの。
好きって言って欲しいの。私が言えたらいいの。ただ、好きって言えれば。
こんなに簡単なことはないって巴衛様は笑うんだ。だって何でも意図も容易く成し遂げられた方だもの。





ただ、一つをのぞいて。





「なあ、奈々生、そこは寒くないか?」




(何を言うのそんな訳ない。)




「寂しくないか?」




(こんなに近くに巴衛様がいるのに。)





「俺を怨んでいるか?」




(巴衛様…)




「奈々生…愛しているよ。すぐ、そこに行くからな。」




私の元にしゃがみこんだ巴衛様がもう一度愛してるよ、と呟いた。
私がいるのに。いることさえも伝えられない。こんなにあなたを想っていることも。
お願い、私が笑顔にさせて見せるから。今はこのままでもいつか美しい精になってあなたにお遣いすることを誓うから。


だからどうか御願い





(お願い、泣かないで。)





「やはりお前は今まで見た中で一番美しい桜だな。奈々生を…ありがとう。」





その日は幸せな夢を見た。
朝目覚めたら私は言葉も話せて、歩くこともできる。隣に巴衛様がいる。
いつも見てた景色じゃなくて、私は社にいるの。
奈々生が食べていた想像もできないような味の料理を食べて、おいしいねって笑うんだ。

これからも一緒だよって。
だからこの先の生涯、さみしくなる日なんか永遠に来ないよ。



だから笑って。











笑ってよ、巴衛様。



終わり


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