short story

□wish
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世界が、白かった。

僕は、手の先が寒さのせいで痺れていくのを感じていた。
ぐるぐるとマフラーを巻いた首の周りだけ、妙に熱がこもっている。
それが、なんだか妙に不思議な感覚に思えて、僕はマフラーを引っ張って場所をずらした。

「まだ、行かないのか?」

雪と同じくらい白いファーのついたコートを羽織った男が、立ちすくんで動かない僕に催促するように問掛けた。

「待って、あと少し、彼女が眠るまで」

二人が居るのは寝静まった民家の屋根。
そこから頂戴、目の前にある隣の家の窓から、部屋にいる一人の少女の姿が見えるのだ。

「あの子のことが、気がかりなのか?」

僕は、マフラーに顔の半分を埋める仕草をしながら、肯定の意味を込めて頷いた。

「僕は、本当に行かなきゃならない?」
「決まり、だからな」

決まりという言葉が、やけに重たい言葉に感じて、僕は再びうつ向いた。

それから「そうだね」と男の返事に独り言のように呟いてから、僕は雪のせいで不機嫌そうに見える空を仰いだ。






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