short story
□レプリカ
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「私は、貴方の真実が見たいわ」
そう言った瞬間の、普段はクールな貴方の驚いた顔は、とても滑稽だった。
それから、貴方は意味が分からないというように、眉をしかめて目線を本の続きへ戻した。
「いきなり、何?」
「私、貴方の本当の表情を見たことがないから」
私は遠くを見ながら、休み時間の教室の騒音にかき消されないように呟いた。
「こんなに、一緒にいるのに?」
「えぇ」
私達は想い合って付き合っているわけでも、特別に仲が良いわけでもない。
ただ、クラスに染まれずに浮いた者同士、寄り添っているだけ。
「面倒くさいことを言うなあ、君は」
貴方は本を読むことを諦めたのか、分厚い頁を閉じると、腕を組んで私の瞳を見た。
(嗚呼、綺麗だな)
真っ直ぐ前を見る時の貴方のその目が、私は好きだった。
切長の目に収まる深くて濃い黒、ただ黒いだけの瞳。
嗚呼、私の身体ごと、その闇の中に落ちれたらいいのに。