short story
□蛍
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夏が、泣いた。
争って死んでいった、兵士を慈しむかのように、暖かい涙で。
いつもより、暑かった夏が終わるのだ。
戦争の終わった町は、とても静かだった。
誰が生きているのか、誰が死んでいるのかも分からない。
母は泣いた。戦死した父のため。
「お父さんも、足が悪くなかったら生きて帰ってきてくれたのかね…」
父は生まれつき、足が悪かった。
それでも、父は戦争にかりだされたのだ。
「自分よりも弱い人は守りなさい。それが、強さの常識だ。」
ありきたりなセリフ。それが、父の口癖だった。
私は泣いた。父と同じく戦死した兄のため。
私と同じく、父の口癖を聞いて育った兄は、私達を守るために国に命を捧げた。
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