short story
□手の上の蝶
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「俺、血の繋がった女しか愛せねぇから」
いつの間にか、離れていった蝶々を捕まえたくて。
いつの間にか、途切れていた精神を繋げたくて。
無理矢理にでも取り戻したいものが、あった。
* * *
「理央!告られた時にあんな台詞でフルのやめてって言ったじゃん!」
時計の針は十九時過ぎ。
リビングでコンビニ弁当を食べながら、くだらないバラエティー番組を見ているなか、そんな怒声と共に奈央は帰ってきた。
「あー うっせぇ。
単なる冗談じゃん。誰も本気にしちゃいねぇよ」
怒りを表現するかのように、さっきまで部活で使っていたテニスラケットを荒々しくソファーに置くと、再び奈央の文句は始まった。
「知らない人にまで、からかわれるのが嫌なの!
皆、私たちの変な噂を流してるんだからね!
告白を断るんなら、もうちょっとまともな理由にしてよ!」
掴みかかるかのように俺に飛びかかってきた奈央が、なんだか面白くて、俺は挑発をしかけてみた。
「別に、冗談って分かってるんだから気にすんなよ。
それとも、なに?俺のこと意識しちゃうわけ?」
目を見開いた奈央と、一瞬の沈黙。
そして、部屋に弾けた打音。
「最低!」
自室へと駆けて行った奈央に置いていかれたのは、状況の掴めていない俺と、頬の痛みだった。