おはなし


□ひかり
1ページ/32ページ

あの日の夜。
そう、チカさんと二人で食事をしたあの日の夜。
私は、チカさんへ抱いた思いが何なのか、わざと、気付かないようにしていた。
気付いてしまったら、また、苦しむことになりそうだから。
でも、自分の気持ちは思った以上に正直で・・・。

それなのに、車の中でチカさんは、私の中の正直な気持ちを消し去った。
いきなり、あんな質問。

『ユミコの昔の恋人は女の人?』

ただの興味本位で、聞いてきた感じではなかった。
帰り際に、わざわざ呼び止めて、そして、気まずそうに・・・。
チカさんが、私にあんな質問を投げかけたのは、
「きっとチカさんには、思う女性がいて、それについて悩んでる」
そう解釈した。

そして、そう思った瞬間、

「傷つきたくない」

私の防衛本能が、心をガードした。
だから、差し込み始めていた光を、無理に消すしかなかった。
あの日の夜も、光なんて射してはいなかった、と。


チカさんとトナミのプレお披露目公演は順調に進み、名古屋で過ごす期間も、後わずかとなった。
私にとって初めての名古屋公演、そして、組換え後初めての公演。
慣れないことは、いっぱいあったけど、みんなの助けもあり、舞台のほうは納得がいくものになってる。

そして、チカさんとも、いたって普通。
まるで、何事もなかった様に・・・。

きっと、チカさんにとっては、たいした出来事ではなかったんだよね。
二日後のお稽古で顔を合わせた時も、
「この前ゴメンね。名古屋から戻ったら食事行こう」なんて、呑気に笑いながら言ってきた。
私もチカさんに合わせて笑うしかなかった。
なんとなく、悔しくて・・・。
何でもなさそうな、チカさんを見ると悔しくて、そして、切なくもなったけど。

もちろん、私も、チカさんに対して、以前と変わらない様に振舞った。

「私も何も気にしてません。」って顔して、お稽古した。
そして、冗談を言い合ったりもした。
チカさんの前では、いつも笑っててやるんだ!!
最初は辛かったけど、私の中のヘンな意地が、私を奮い立たせてくれた。

私もチカさんも、それ以上あの日の出来事に、触れることはなかった。


そんな苦労の甲斐もあり、最近では、チカさんとごく自然に接することが出来てきた。
私の気持ちに、ムリをさせることもなくなった。
今は、この状態を保っていられることを、嬉しく思えるようになった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ