mist-word 一周年記念

□レカス的「シンデレラ」
2ページ/14ページ



 そんな、ある日のことです。

 「カスミねーちゃん、たいへんたいへんっ!」
 「どうしたの? サファイア」
 「今日、花嫁が舞踏会でみんな行かなならんと!」
 「お、落ち着いて。もいっかい、言ってくれる?」
 「えっと……」
 「カスミねーさま、大変大変!」
 「お前もか、クリス……」
 「は?」
 「ううん。こっちの話。それより何? 大変なことって」
 「今日の夜ね、王宮で、王子様の花嫁選びが目的の舞踏会が開かれるんだって。で、この国の女性はすべて参加するように、ってお触れが出たの」
 「そうそう! それで今、街は大騒ぎったい」
 「王子様って、どんな方でしょうね?」
 「きっと強くてカッコよかはずったいね!」
 身振り手振りで興奮を表わす義妹たちを見ながら。
 その時、シンデレラの心に浮かんだ数々の思い。

 (うわぁ……それってセクハラだってば)
 (にしても、この国の王子も情けないものね。自分の嫁ぐらい自分で探しなさいよ)
 (舞踏会ってことは、ドレス必須でしょ? うーわー。また出費がぁ!)

 しかし、どんな馬鹿らしいお触れも、お触れはお触れ。
 仕方なくシンデレラは、実母と自分のドレスを仕立て直して、義母と義妹たちにぴったりのドレスにしつらえ、まだ何とか売りに出さずにすんでいた宝石の数々を取り出して、舞踏会の準備をします。
 そのおかげで、当日に突然のお触れ、という非常識さにもかかわらず準備万端です。


 「カスミさんは、ボクらと一緒に行かないんですか?」
 「イエローお義母さま、あたしはそんなのに興味はないんです。それに、ドレスも装飾品も三人分しか用意できませんでしたから、あたしの分はないんです」
 「カスミねーさま。だったらわたしが代わりに、」
 「いいのよ、クリス。あたしは、自分の嫁も自分で見つけられないような王子に興味はないの。でも、クリスは王子様を見てみたかったんでしょう?」
 「カスミねーちゃん。あたし、何かお土産持って来るったいね!」
 「ええ。よろしく頼むわね、サファイア」
 ドレスを着せてやり、髪を整えてやり、と。
 三人の着せ替えに奮闘したシンデレラは、もう身なりなんて構っていられない、とばかりに、ぼさぼさの髪に着乱れた継ぎだらけの服です。
 しかし、達成した喜びに満たされたシンデレラは、そんなことに頓着しません。
 なけなしのお金で頼んだ馬車に乗り、王宮へ向かう義母と義妹たちを見送り、シンデレラはようやく訪れた静かな夜に頬を緩ませます。

→続く
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ