mist-word 一周年記念
□レカス的「シンデレラ」
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そんな、ある日のことです。
「カスミねーちゃん、たいへんたいへんっ!」
「どうしたの? サファイア」
「今日、花嫁が舞踏会でみんな行かなならんと!」
「お、落ち着いて。もいっかい、言ってくれる?」
「えっと……」
「カスミねーさま、大変大変!」
「お前もか、クリス……」
「は?」
「ううん。こっちの話。それより何? 大変なことって」
「今日の夜ね、王宮で、王子様の花嫁選びが目的の舞踏会が開かれるんだって。で、この国の女性はすべて参加するように、ってお触れが出たの」
「そうそう! それで今、街は大騒ぎったい」
「王子様って、どんな方でしょうね?」
「きっと強くてカッコよかはずったいね!」
身振り手振りで興奮を表わす義妹たちを見ながら。
その時、シンデレラの心に浮かんだ数々の思い。
(うわぁ……それってセクハラだってば)
(にしても、この国の王子も情けないものね。自分の嫁ぐらい自分で探しなさいよ)
(舞踏会ってことは、ドレス必須でしょ? うーわー。また出費がぁ!)
しかし、どんな馬鹿らしいお触れも、お触れはお触れ。
仕方なくシンデレラは、実母と自分のドレスを仕立て直して、義母と義妹たちにぴったりのドレスにしつらえ、まだ何とか売りに出さずにすんでいた宝石の数々を取り出して、舞踏会の準備をします。
そのおかげで、当日に突然のお触れ、という非常識さにもかかわらず準備万端です。
「カスミさんは、ボクらと一緒に行かないんですか?」
「イエローお義母さま、あたしはそんなのに興味はないんです。それに、ドレスも装飾品も三人分しか用意できませんでしたから、あたしの分はないんです」
「カスミねーさま。だったらわたしが代わりに、」
「いいのよ、クリス。あたしは、自分の嫁も自分で見つけられないような王子に興味はないの。でも、クリスは王子様を見てみたかったんでしょう?」
「カスミねーちゃん。あたし、何かお土産持って来るったいね!」
「ええ。よろしく頼むわね、サファイア」
ドレスを着せてやり、髪を整えてやり、と。
三人の着せ替えに奮闘したシンデレラは、もう身なりなんて構っていられない、とばかりに、ぼさぼさの髪に着乱れた継ぎだらけの服です。
しかし、達成した喜びに満たされたシンデレラは、そんなことに頓着しません。
なけなしのお金で頼んだ馬車に乗り、王宮へ向かう義母と義妹たちを見送り、シンデレラはようやく訪れた静かな夜に頬を緩ませます。
→続く