mist-word 一周年記念
□ゴーイエ的「おやゆび姫」
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「……で? 何の用だ?」
小麦畑に囲まれた陋屋(ろうおく:荒れ果てた小さな家)に住む賢者は、突然、まるで道場破りのように訪れたおねーさまに、顔を引きつらせながら問いかけます。
それは陋屋が、おねーさまの勢いで壊れかけたのが原因かもしれません。
「子供が欲しいの。だからグリーン、作って」
さらり、と言ってのけたおねーさまの言葉は、かなりの破壊力を有しています。
それを聞いた賢者は、無意味に、こほん、と咳払いをしました。
「子供? 何でそんなものが欲しいんだ?」
「べ、別に寂しい訳じゃないのよ。でも、やっぱり、子供を育てるって女の夢じゃない。だから可愛い子供が欲しいんだけど、アタシだけじゃどうしようもないのよ」
何気に本音がだだ漏れしていますが、賢者は賢明にもそれを指摘しませんでした。
「なら、これを植木鉢に植えるといい」
そう言って賢者は、一粒の大麦を差し出しました。
「何よ、これ? アタシは子供が欲しいんであって、」
「慌てるな。これはそんじょそこらの大麦じゃない。畑にまく麦や、ニワトリに食べさせる麦とは別物の特別な大麦だ」
「じゃあ、これで子供が授かるってことね?」
念を押すおねーさまに、賢者は厳かに頷きます。
「じゃあもらうわ」
「ああ。銀貨十二枚だ」
「分かったわ。でも、もしそれが嘘だったら――グリーン、別の方法で子供を授けてもらうからね!」
ちゃっかり言質ももぎ取って、おねーさまは一粒の大麦を受け取りました。
→続く