mist-word 一周年記念

□アスカガ的人魚姫 ボツver
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アスカガ的人魚姫 ボツver

1.海の王国の守護者たち


 陸にあまたの陸の王国があるように、海にいくつもの海の王国がある。


 海のプラント王国を守護する軍隊・ZAFT。
 その中でもエリートと称される紅服の一小隊、人魚である彼女たち(笑)の詰め所に、ヒステリックな声が今日も響き渡る。
 「アスランの奴! また海の外へ行っているのかっっっ!!?」
 凄まじいキレっぷりを見せるのは、おかっぱの銀髪もまばゆい一小隊の副隊長である、イザーク=ジュールだ。
 「仕事熱心と取りたいけど、ま〜た厄介ごとを持ち込むんじゃないか?」
 それに対し、へろり、と軽く笑ったのは、イザークの補佐的役割を担い、頭に血の昇りやすい彼女の世話役でもある、ディアッカ=エルスマン。
 そしてその軽々しい言葉に、
 「止めてくださいよ……あり得過ぎて怖いですから」
 と、頭を抱えたのは、アスラン、と呼ばれたこの一小隊の隊長であるアスラン=ザラの補佐役・ニコル=アルマフィだった。
 その脳裏には、任務遂行の駄賃とばかりに、破船した残骸から機械とやらを持ち帰り、うきうきといじり倒しているおのれの隊長の姿が浮かぶ。
 海の王国に陸の物を持ち込むのは規定違反だというのに、だ。
 そのせいで何度も軍法会議にかけられ、その有能さのお陰で首の皮一枚で処罰を免れている事実に、もしや気づいてないのだろうか、と思えるくらいの学習能力のなさである。
 ニコルの浮かべたアスランの習性(笑)をディアッカも思い浮かべたのか、
 「あ〜あ。あの悪癖さえなけりゃあ、白服どころか黒服にも、とっくの昔になってただろうになぁ」
 勿体無い、と言いたげに嘆けば、
 「認めるのは忌々しいが、それは否定できんな」
 溜め息混じりに、イザークも頷く。
 この多種族で構成される海の軍隊・ZAFTで、人魚で女だというハンディを背負う彼女らにとって、実力とそれに見合う家柄を持つアスランは希望の星なのだ。
 だが、当の本人は、そんな期待などどこ吹く風。
 というよりも、彼女らの期待に気づいてさえいない様子だ。
 「「「はぁ……」」」
 その事実に行き着いてしまった三人は、大きなため息をついた。


 海の宮殿の一角。
 国防長官であるパトリック=ザラは、おのれのいる執務室の空間がゆがみ、一人の男が現われるのを視線を上げるだけで出迎えた。
 「お久しゅうございます、国防長官殿」
 「海の魔法使いが、こんな場所へ何の用だ?」
 仮面で顔を隠し、軍服にマントという格好の男・ラウ=ル=クルーゼに、パトリックは冷ややかな声と興味を失ったような様子で問う。
 「ここは、お前の来るような場所ではない、と分かっているだろうに」
 「その禁を犯すほど、重大なことだと思っていただきたいですね、国防長官殿」
 もったいぶってそう言ったラウの存在に、初めて気づいたような風情でもう一度、パトリックは目を上げた。
 視線が―――絡み合う。
 「あなたのご令嬢の件で」
 「アスランの?」
 打てば響く、と評したくなるようなパトリックに、ラウは、薄く笑った。
 「あなたのご令嬢は、『近く、陸に上がることとなる』」
 「……お前の先読みの結果か」
 「はい。今度は、いつもしているような、海の外に出る程度ではありません。そして、いったん陸に上がってしまえば、二度と海には戻って来られない」
 仮面の奥にある目は、パトリックの反応を求めて爛々と輝く。
 「海の民はみな、お前の助力がなければ陸に上がることは出来ない。それでも、お前がそれを問うのか?」
 「私は、訪れた者の願いを叶えるために存在しますゆえ。それはあなたがいちばん良く知っておられるはずです」
 「ならば、お前はお前のなすべきことをすれば良い。余計な干渉は不要だ」
 「ご令嬢を見捨てるお心算で?」
 「あれが選んだことは、あれが選んだことだ」
 淡々と言い切るパトリックを観察したラウは、口の端を吊り上げた。
 「その言葉、お忘れなきよう」
 呪いのような言葉を残し、空間のゆがみとともにラウの姿は執務室から消える。
 それを見届けたパトリックは、目に苦渋を宿して、机に置かれたフォトスタンドを手に取った。
 「これは、お前を陸から引き離した私の罪の結果だろうか。なあ、レノア」
 亡くした妻と娘とおのれの写った最後の写真に、ぽつり、ぽつりと雫が落ちた。




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