『引き伸ばし』

 人間の身体を強引に引き伸ばすことで苦痛を与えるタイプの拷問具は案外ポピュラーなものであった。
 大別して、垂直方向に儀牲者を吊るして重力を利用するタイプと横に寝かせておいて巻き取り機などを利用するタイプがある。ここではまとめて扱うが、前者は東洋西洋の両者に見られるのに対して、後者はほとんどが西洋であるというのは興味深い事例であるかもしれない。

<振り子>拷問具/単独
 天井、または空中に渡した横木に付けられた鉤と、ロープを巻く滑車からなる拷問具。腕を背中で交差させるように縛り、滑車を回して吊り上げる。これによって不自然な方向に腕がねじ曲り、犠牲者にひどい苦痛を与える。場合によっては足に石などの重りを吊るすことも行われた。
 また、犠牲者を高く吊り上げてから落とし、また吊り上げるという「吊るし落とし」と呼ばれる拷問も行われたが、この場合はほぼ確実に腕や肩を脱臼した。当時の技術では脱臼は直らないことも多く、拷問を受けた後で自殺する者もいたと言う。

<オーストリア式梯子>拷問具/単独
 下方に稼働式の丸棒が付いている梯子。犠牲者は45度の角度で立て掛けられた梯子に仰向きで乗せられ、背中側で腕を梯子の段の一つに固定される。足は丸棒にくくり付けられ、ゆっくりと丸棒が引き下ろされる。これは犠牲者が肩を脱臼するまで続けられた。また、それでも自白しない場合は、脇を火で炙られたという。
 テレジア法典では七本の蝋燭を束ねたもののみしか認められていなかったが、適用されなかったドイツではタールなども利用された。千夜一夜物語の中にもこれと思われる器具が登場する。

<伸張拷問台(ラック)>拷問具/単独
 ベットの足元と頭上にローラーが取り付けられたもの。犠牲者はベットの上に寝かされ、手と足をそれぞれのローラーにロープで縛り付けられる。その後、ローラーを回すことによって犠牲者の身体を引き伸ばしていく。記録では長さが30cmも伸びたという記録があるが、そこまでいかなくても四肢などの関節は外れ、筋肉や筋が伸び切ってしまうことになる。
 ローラーが一つしかなく片方は鉤になっているもの、ベットの上に棘が生えているものもあるが、基本的にはローラーで人体を引き伸ばしていくという構造に変化はない。

<エクセター公の娘>
 伸張拷問台(ラック)とほぼ同じものである。有名なロンドン塔にこの器具を設置したエクセター公の名を取ってイギリスではこう呼ばれる。使用方や効果は伸張拷問台(ラック)を参照。
 拷問具の中には娘や処女、乙女など女性の名称が付けられたものがいくつも存在するが、これもそのうちの一つである。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ