読物

□愁いの瞳
1ページ/1ページ

 ナルトだと、直ぐに分かった。
全身傷だらけで、渓谷の断崖に根を張る木の枝に引っ掛かっていた。
考える間も無く。
サスケは、それを拾っていた。


 一年。
サスケが彼を振り切ってから、流れた歳月だ。
汚れて煤けた金髪が伸びて頬を被っている。
柔らかい頬は、少し丸みを失った。
森の中に見付けたせせらぎの端に横たえて、傷口を拭ってやれば、どれも浅い傷ばかりで。
サスケは。
安堵した。
あの日振り切った彼。
あの日、殺そうとした彼。彼は。
もう自分にとって何の価値も無い。
そう思っていたのに。
白い肌は、相も変わらずサスケの胸を波打たせた。
「サスケ…。」
意識の無いままの唇から自分の名が零れ、久しぶりに聞く彼の声に息が詰まった。
いつでも、彼が自分を呼ぶ声は、特別だったから。
不意に込み上げる。
それを紛らわせるかの様に、サスケは身を翻した。
復讐。
彼の傍に居ては、それが朧に霞んでしまう。
幸せ過ぎて、忘れてしまう。
憎しみを。
けして許せぬ裏切りを。
だから。
離れるのだ。
彼には届かぬ闇に堕ちるのだ。
それ以外の生き方など、自分が自分を赦せやしない。


涙は堪えた。
けれども、乾いた笑いが零れた。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ