読物

□あの日吐いた君の嘘
1ページ/4ページ

 くちづけたのは、あんまりに君が愛おしかったからだよ。
頬を染めた君がまた可愛らしくて、僕は堪らなくなった。


 手を繋ぐ河原の畔道。
夕暮れ、君は泥だらけ。
別れがたくて、何も言わずにただ歩く。
宵闇を促す風が、汗の退いた身体を震わせた。
「寒いのか?」
尋ねれば、戸惑う様な瞳で振り返る。
「ううん。平気だってばよ。」
強がりは、二人の時間を壊したくないから。
そうか、とだけ、佐介は応じて。
握る小さな手に力を込めた。
この、頼りない躯。
そんなか細さで、強がりばかりに跳ね回る姿が佐介には溜まらない。
可愛いから、目が離せない。
いや違う。
ただ可愛いだけなら、鳴門でなくとも良いのだ。
同じ班だから。
常に傍らにいて。
ゲンナリするほど駄目かと思えば、ここ1番では必ず目を見張るような閃きを見せる。
何事にもソツのない誰かではなく、何時でも最後に佐介の傍らに居るのは鳴門だった。
それから。
気になりだしたのは、本当は同じ班になってからじゃない。

君は何時も一人ぼっち。
僕も何時も一人ぼっち。
広い里の中で、二人は孤独な二人ぼっち。

そうして見ていたら。
佐介にとって、鳴門は特別になった。
だから手を繋ぐ。
佐介の中に抱える焦懆を、彼となら分かち合える気がするから。
彼は、佐介にとって何人にも替えがたい人間になったのだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ