読物

□あの日吐いた君の嘘
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「…鳴門?」
呼びかけるのには、勇気が要った。
流石に。
「…?」
振り返った青い瞳が、佐介の言葉を待った。
「…。」
この期に及んで、言い淀む。
訝しげに寄せられた鳴門の眉根は、驚く程白い。
「あのさ…。」
言葉を継ごうと、思わず握る手に力を込めすぎて、すくんだ鳴門の肩に、佐介は慌てて手を離してしまった。
向き合って。
互いに何故か気まずくて、俯いて。
「このまま…家に…来るか?」
明日は、休みだから。
言い訳みたいに呟いた佐介の視線の先には、鳴門の爪先がある。
「…え?」
鳴門の声がやけに遠くに感じる。
断られたら、どうしよう。別れ難い。
このまま傍に居てほしい。そう、強く願ってしまうから。
だから。
「良いの?」
思うより明るい鳴門の声に、佐介の胸は軽くなる。
はぜる様に。
顔を上げれば、彼が、笑っていた。

ああそれだけで。
何故にこんなに、心踊るのか。

これが恋だと、佐介は既に分かっていた。
愛おしいのだ。

だから、口付けた。




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