読物

□さ迷える秒針
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 しとしとと通りを湿らす雨音は、部屋の中にまで重い冷たさを齎した。
結露した窓を拭い見下ろした町は、どこかみすぼらしく汚れて見える。
ふと、見知った家紋が視界を横切る。
傘に入った団扇のマーク。
全く何にでも家紋を入れる一族だと、ナルトは呆れて少し笑った。
そんな傘さしてるの、お前しか居ないってばよ。
普通なら軽い揶喩に聞こえる台詞も、彼にとっては悲劇だから笑えない。
だからナルトは、古びたアパートの扉が開いても、そんな事はサスケには言わなかった。


 サスケが持って来たさくらんぼを摘みながら、ナルトはサクラを思い出した。
「折角だからサクラちゃんも呼ばね?」
軽い思い付きの提案に、ナルトの正面に陣取るサスケの面が曇った。
「そしたら可哀相だから、サイも呼んでやるか?」
ナルトはその変化に構わず続ける。
「なんで?」
「このさくらんぼスゲェ美味いからさ、サクラちゃんにも食べさせてあげたいってばよ。」
横向いたサスケの口許が、ふて腐れた様にひん曲がっても、ナルトは何でもない事として答えた。
「ならまた別口で、アイツラにも買ってくる。」
サスケは何時だってそうだ。
ナルトと二人きりになりたがる。
「えー。皆で食べたらもっと美味いと思うけどなぁ。」
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