忍ぶる恋
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1つの村が消えた。
このご時世そう珍しいことではない。
戦に巻き込まれたのか、山賊に襲われたのか、村人の生存者はおらず火が燃え上がっていた。
だが、ただ1人燃える村の中で膝をつき泣き叫ぶ女がいた。
「これは酷い…」
「生存者は…あまり期待出来ませんね…」
忍術学園学園長の大川平次渦正から数日前に襲われた村の状況を調べてきてほしいと、山田伝蔵と土井半助は調査に来ていた。
村は燃やされていたが大雨が降ったおかげで早めに火が消えたらしく、家の形は残っていた。
村の中を歩いているとキラリと光るものを見つける。
「山田先生、原因は戦や山賊のせいではないようです。」
「そのようだな…。」
半助は地面に落ちていた銭の中から1枚拾い上げる。
他にも金目のものが残っていることから戦に巻き込まれた、あるいは山賊に襲われたという線は無くなった。
調べていくと家の壁には刀傷だけではなく苦無や手裏剣で出来たであろう傷も見つかった。
「同業者か…」
「どこかの城の依頼ですかね…。」
2人は同業者の仕業だとわかり顔を歪めた。
忍の仕事だとわかっていても辛いものがある。
しかし、不思議なことに2人はまだ誰の遺体も見ていない。
雨で火が消えたことから燃えてしまったことはないだろう。
ーーザッ……
その時、かすかに何か音が聞こえた。
2人は警戒しつつ音の聞こえる方へ気配を消して向かった。
物影に隠れ様子を伺うと、誰かが地面を掘っていた。
体格から女だと判断出来る。
髪は紐が切れたのか結われていなく、顔も隠れてうまく見えない。
良く見れば深緑色の忍装束を着ている。
[どうしますか?]
[少し様子を見てみよう。
何かの罠ということもある。]
矢羽音で会話を交わした2人はその場から女を観察する。
穴を掘っていた女はピタリと動きを止めるとこちらを見ずに声をかけてきた。
「…あと1人なんだ…。
それくらい待ってくれない?」
「「!?」」
伝蔵と半助はそれぞれ武器に手をかけるが、女から殺気は無い。
穴を掘り終わった女は何か大きな布の塊を抱えてきた。
「お待たせ。
父上と母上の隣だよ…。」
そう呟くと女は布を穴の中に優しく置いた。
「(これはっ…)」
「(そうか…この山は全部…)」
2人は理解した。
女は墓を作っていたのだ。
砂山の数を見るからに恐らく村人全員分だろう。
最後に埋めたのは子供…大きさから5歳くらいだろうか。
女は村人をそれぞれ家族ごとに分けていたらしい。
砂をかけ最後に小さな花を添えて手を合わせた女は立ち上がる。
「さぁ…煮るなり焼くなり好きにするがいい…。」
女の声に2人は姿を現し声をかける。
「我々はあなたに危害を加えるつもりはない。」
「どうか安心してください。」
チラリとこちらを振り返ったが相変わらず髪のせいで顔は見えなかった。
「何だ…違うのか…。」
「我々は忍術学園の教師です。」
「襲われたこの村の調査に来ました。
よろしければお話を伺いたい。」
どこか緊迫していた女の空気が少し弱くなった気がした。
「…。」
空を見上げた女は、糸が切れた操り人形の様に力が抜けてパタリと倒れた。
余談
タイトルの“忍ぶる恋”は、式子内親王の和歌から取りました。
「玉の緒よ…」から始まる和歌です。
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