忍ぶる恋

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03


薬草の臭いと誰かの話し声に加弥乃はゆっくりと目を開けた。

そこは布団の上で、自分は横向きに寝かされていた。

体中の傷ががズキズキと痛み、頭がクラクラする。


「あ、気が付きましたか?」

「!!」


忍装束を着た青年が顔を覗き込み、驚いた加弥乃は咄嗟に青年を床に叩きつけ青年の懐にあった苦無を奪っていた。


「うわぁ!?」

「伊作先輩!?」

「(こ、子供…?)」


叩きつけた青年を心配して眼鏡の少年が駆け寄る。

加弥乃は意識を失う前に何があったのかうまく思い出せず混乱していた。

いくら子供でも2人とも忍装束を着ていることから加弥乃は警戒心を解かなかった。


「どうした!?」


騒ぎを聞きつけたのか、加弥乃が背にしている障子から現れた人物に苦無を向けると相手は出席簿でで受け止めていた。


「落ち着け…加弥乃!」

「!!……何故…」

「「えいっ!!」」

「えっ…きゃあ…!?」


自分の名前を呼ばれ驚いていると後ろから体重がかかり、加弥乃は床に押さえ付けられてしまった。


「乱暴なことをしてすみません…。
でも、こうでもしないと大人しくしてくれないと思って…。」

「ごめんなさいお姉さん…。」


加弥乃の背中には伊作と乱太郎が傷に負担がかからないようにしながら、押さえ付けていた。


「何事だ半助!」

「…半…助…?」


伝蔵が慌ててやって来ると同時に口にした名前に加弥乃は反応する。


「…私が半助だ、土井半助。
覚えているかい?」

「土井…。
……半助…先輩…?」

「あぁ。久しぶりだな加弥乃…。」


しゃがみ込み、そう言って微笑む半助に加弥乃は驚きで目を見開いていた。




「先程は大変失礼いたしました。」


正座をし、床に額を擦り付けるほど加弥乃は頭を下げていた。


「頭を上げてください。
僕が驚かせてしまったみたいですし…。
それに傷に響きます!」

「私達不運なことには慣れてるので気にしないでください。」

「不運…?」

「とにかく!!話を本題に移すぞ。」


半助はどう言った経由で加弥乃をここへ連れて来たのか、ここはどこなのかを詳しく話した。


「そうですか…。
手当までしていただいて感謝いたします。
ですが、これ以上ご迷惑おかけするわけにはいきませんので、私はそろそろ失礼します。」

「待て待て!!
その怪我で出ていくつもりか!?」

「?…はい。」

「首かしげて何不思議そうな顔してるんだ!!」


半助のツッコミに訳が分らないといった顔をする加弥乃。


「あなたにはお伺いしたいことがいくつかありますので、傷を負っているところ申し訳ないがまずは学園長に会っていただきたい。」

「…わかりました。」


伝蔵の話に加弥乃が了承をしたところで校医の新野洋一が帰ってきた。


「あぁ、よかった。
目が覚めたのですね。
体の調子はどうですか?」

「あなたが校医の先生ですね。
ありがとうございました。
だいぶ楽になりました。」


新野がよかったと笑顔で答えると、半助は乱太郎に消灯時間だから部屋へ戻るように言う。

不満がありそうな乱太郎だったが、大人達の少しピリピリとした雰囲気を感じ、ただ従うしかなかった。

乱太郎は長屋へ戻り伊作は保健室に残り、加弥乃は先生達と学園長の元へ向かうことになった。

改めて自分の身なりを確認してみる。

髪は下ろされたままで、服装はもともと着ていた忍装束ではなく藍色の小袖を着ていた。


「その服は、くの一教室の先生が貸してくださったんだよ。」

「そうですか…。」


加弥乃の気にしていたことがわかったのか、後ろを歩く半助がそう言った。

伝蔵について歩くと学園長室となっている庵に着いた。


「学園長、連れて参りました。」

「うむ、入りなさい。」


襖の向こう側からは何人もの警戒する気配が感じられた。





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