忍ぶる恋

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「「うわぁぁぁ!!!」」


裏裏山に2人分の叫び声が響く。

急な斜面を勢いよく滑り落ちるのは体育委員会の皆本金吾と時友四郎兵衛だ。

マラソン中に足を滑らせてしまったらしい。

斜面を滑り落ちた2人はその勢いのまま斜面の下にある崖へ放り出されてしまった。


「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」


その時、2人の身体にどこからか飛んできた鉤縄が巻き付き、2人は下に落ちること無く宙にぶら下がることとなった。


「た、助かったんだなぁ…。」

「でも一体誰が…?」

「おーい!大丈夫かー?」


上からの声に顔を上げると、そこには2年の川西左近と3年の三反田数馬が顔を出していた。

この2人の組み合わせから保健委員会だと気付いた金吾と四郎兵衛は、鉤縄で助けてくれたのはきっと保健委員会委員長の善法寺伊作だとほぼ確信していた。

上に引き上げられ伊作にお礼を言おうとした2人だが、そこにいたのは伊作ではなく加弥乃だった。


「あれ!!加弥乃さん!?」

「びっくりなんだな〜!!」


加弥乃は鉤縄を懐にしまいながら驚く2人の前へ膝をつく。


「2人とも大丈夫?
歩いていたら突然目の前に飛び出してきてそのまま崖へ落ちていくから驚いたよ。」

「あ、ありがとうございました…!!!」

「助かりました…なんだな〜。」


どうやら加弥乃は保健委員会の手伝いで薬草摘みに来ていたらしく、3人とも背中に薬草の入った籠を背負っていた。


「2人とも擦り傷だらけじゃないか!
すぐに薬を塗るからな!」

「ありがとうございます三反田数馬先輩。」

「四郎兵衛、またいけどんマラソンか?」

「そうなんだな〜。」


保健委員会の2人は体育委員会の2人の手当をテキパキとこなす。


「君達2人だけ?」

「七松委員長は追い付けないスピードで走り去り、4年の滝夜叉丸先輩は3年の無自覚な方向音痴の次屋先輩を探しに行きました。」

「七松先輩はそろそろ折り返してくる頃なんだな。」

「なんだか大変そうね…。
…うん、確かに委員長さんは折り返して来たみたいだ。」


そう呟くとどこからか手裏剣が飛んできたため、加弥乃は手で受け止める。


「あなたが体育委員会の委員長さんかしら?」

「ふむ…やはり強いな!!!」

『七松先輩!!!』


木の上から降りてきた小平太が楽しそうな顔で加弥乃を見ていた。


「加弥乃ちゃん!私と戦え!!」
「お断りします。」

「何故だ!?」


小平太の挑戦に加弥乃は即答した。


「お世話になっている学園の生徒と戦うわけない無いでしょ。」

「細かいことは気にするな!!」

「気にするわ。」

「私は戦いたい!!」

「駄目。」

「戦いたい!!!」

「はぁ…。」


埒が明かないと頭を抱えてため息を吐く加弥乃に金吾と四郎兵衛が耳打ちをする。


「七松先輩はこうなったらなかなか引き下がりませんよ。」

「いけいけどんどんで追いかけてくるんだなぁ…きっと。」


小平太を見れば、確かになかなか諦めそうにない。

裏裏山までマラソンをして折り返して来たにも関わらずこの元気さからして、体力が有り余っているのだろう。


「ではこうしましょう。」


何かを思い付いた加弥乃は小平太に提案をする。


「今から夕食の鐘がなるまで七松君は逃げ回り、私は君を捕まえる…所謂鬼ごっこね。
君が勝ったら勝負してあげるわ。どう?」

「あぁ、いいぞ!!
金吾、四郎兵衛!委員会は終了だ!!
滝夜叉丸と三之助にも伝えておけ!!
それじゃあ…いけいけどんどーん!!!」


小平太は勢いよく走り出し、あっという間に姿が見えなくなってしまった。


「さ、私達は学園に帰りましょう。」

『えぇー!?』


くるりと学園へ向けて身体を方向転換した加弥乃に4人は驚くばかりだ。


「お、鬼ごっこは!?」

「先輩行っちゃったんだな。」

「何のんびりしてるんですか!?」

「体育委員会はよくマラソンしているので、きっと七松先輩の方が地形に詳しくて有利ですよ!?」


金吾、四郎兵衛、左近、数馬に急かされるが加弥乃は大丈夫だと言うだけで、学園へ向けて足を進めてしまった。

4人は不安に思いながらも加弥乃の後をついて歩くしかなかった。

学園に着くと医務室へ薬草を届け、先に帰っていた伊作と何か話すと加弥乃は医務室を後にした。


「加弥乃さん、どうするんだろう…。」

「加弥乃さんならすぐに戻ってくるよ。」


小平太との鬼ごっこが気になる4人に声をかけたのは伊作だった。

伊作の言う通り加弥乃は何かを手にしてすぐに戻ってきた。


「金吾君、はいレシーブ。」

「え、えぇ!?
レ…レシーブ!!」


突然加弥乃に投げられた球体に驚きながらも金吾は言われた通りレシーブをしたのだが、レシーブをした金吾とその光景を見ていた四郎兵衛、左近、数馬は驚いた。

金吾がレシーブをした球体には導火線が付いており、すでに着火されていたのだ。


「トス。」


金吾から帰ってきた球体を加弥乃は頭上高くにトスした。

そこで4人は気付いてしまった。

トスを上げたら必ずアタックを打つ人がいることを…。


「トスが上がったらアタックあるのみ!!
いけどんアターッ…」

ーードーン…!!


どこから現れたのか、小平太がトスされた球体をアタックしようと触れた時、その球体は爆発し小平太は煙に包まれた。

力無く地面へ落ちた小平太をよく見るといびきをかいて眠っているではないか。


「はい、私の勝ち。」


眠る小平太の肩にポンと手を当てると、伊作とともに小平太を医務室へ運び始めた。

加弥乃が持って来た球体には眠り薬が入っていたらしく、伊作から少し分けてもらったそうだ。

以前誤って焙烙火矢をアタックしてしまった小平太を目撃した時、きり丸から小平太はバレー好きでトスが上がるとすぐアタックしてしまうと言う話を聞いていた加弥乃の作戦だった。


「あの七松先輩に…」

「勝っちゃったんだなぁ…」

「すごい…」

「…はっ!!
左近、僕達も手伝うぞ!!」


呆然と小平太が運ばれる光景を眺めていたが、我に返った数馬は左近とともに保健委員の仕事に取り掛かった。





オマケ


その日の夕食…


ーーダダダダダ…


「加弥乃ちゃん!!私と勝負しよう!!!
あれ?金吾、加弥乃ちゃんはどうした?」

「え?加弥乃さんならここに…っていない!?」

「七松先輩の足音が聞こえてすぐに消えちゃったんだな…。」

「鬼ごっこか?
今度は負けないぞ!!
いけいけどんどーん!!!」


加弥乃の七松小平太に追われる日々が始まるのであった。

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