忍ぶる恋

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暗い森の中、金属のぶつかり合う音が響く。


「どうだ?」

「問題ない。
小平太と留三郎がうまくやってくれている。」


頭巾で顔を隠した文次郎と仙蔵が作戦の進み具合を確認する。

今、6年生はある城の機密文書を手に入れろと言う任務を行っていた。

その城には勿論忍もいるので命懸けの任務となる。

作戦では小平太と留三郎が暴れ、その隙に長次が機密文書を奪いに行き、伊作は長次の援護をするという流れだ。

文次郎と仙蔵は引き上げる際の足止め役だ。


「そう言えば今回は監督の先生がいると言っていたな…。」

「何だ文次郎、知らないのか?
今回は加弥乃さんが来ているそうだ。」

「何!?あの女か!!」


文次郎は眉間に皺を寄せ嫌そうな顔をする。

そんな文次郎を見て仙蔵はやれやれとため息をついた。


「本当の教師ではないが、監督役だ。
ちゃんと作戦通り動けよ。」

「当たり前だバカタレ!」


その時爆発が起きた。

それは長次から機密文書を手にしたと言う合図だ。


「そろそろ私達の出番だな。」


しばらくすると引き上げた4人が戻ってくる姿が見えた。


「みんな、怪我はないかい?」

「俺と小平太は問題ない。」

「長次!機密文書は取れたか?」

「もそ…。」


4人とも無事のようだ。

予定通り4人はそのまま文次郎と仙蔵の横を通りすぎ、2人は敵の足止め作業にかかる。


ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー


「(しつこい奴らだ…!!)」


足止め役の2人は未だに先に行った4人と合流出来ないでいた。

足元には自分が倒した敵が何人か倒れている。

やっとのことで敵を撒いた文次郎だが、仙蔵が近くに見当たらなかった。

文次郎は手に付いた返り血を袴で拭く。


「(くそっ…固まっちまったか…。)」


取れない血を見て安否のわからない仙蔵を少し心配していると、背後から苦無で攻撃をされた。

文次郎はそれをかわすと相手の喉元に袋槍を突き刺す。

相手の忍はそのまま地面へと落ち、文次郎は袋槍を回収するため忍のもとへ降り立った。


また血が付いてしまった。

自分が殺した忍はまだ若かった。

歳が近かったかもしれない。

仙蔵は無事だろうか?

早く合流しなくては。

もし殺されたのが仲間の1人だったら?

冷静にならなくては。

殺されるのは俺かもしれない。

死ぬわけにはいかない。

殺される前に相手を殺す。

早く任務を終わらせよう。

仙蔵はどこだ?


「潮江君。」

「っ…!!!」


声のした方へ手にしている袋槍で攻撃をする。

しかし、相手はそれを避けずに手で袋槍を握っていた。


「しっかりしなさい。」

「お前…。」


加弥乃の手からは血がポタポタと落ちる。

はっとした文次郎は袋槍から手を離した。

加弥乃は顔色1つ変えずに袋槍を自分の懐に入れると、文次郎の手を取り掌を見る。


「随分強く握ってたね。血が滲んでる。」

「別に俺のことはいい…。」

「善法寺君が怒るよ。
…たしか、潮江君は会計委員会の委員長だったね。」


加弥乃は文次郎の手に包帯を巻きながら、今の現状に似つかわしくない世間話を始める。


「予算会議が大変だとか、夜中まで帳簿つけたりして寝不足だとか、いろんな話聞いてるよ。
1年生が2人いるんだっけ?
こんな傷だらけじゃ心配されるよ。
1年生は良い子達ばかりだから…。」


気付けば文次郎の先ほどまでの暗闇が渦巻くような気持ちは無くなり、文次郎の手も加弥乃の手も包帯が巻き終わっていた。


「仙蔵はどうした…。
あんたは何故俺のところに来たんだ…。」

「立花君はもう合流地点に向かってるよ。
潮江君のところに来たのは、君が1番忍者してるからかな…。」

「…何だそれは。」


文次郎は訳が分からないと言った顔だ。

6年生はほとんどプロの忍と同レベルの実力があるが、それは外見だけの場合もある。

技術や体力に自分の精神が追いつかないこともあるのだ。

文次郎は常に鍛錬をかかさず真面目で熱血…そんな場面を何度か目撃することがあったので、今回加弥乃は文次郎がそうだと判断した。


「忍者の自分が強すぎて本来の自分を見失いそうになってた…ってところかな。」

「…!!」

「学園には何も知らず、ただ君の帰りを待っている後輩達がいるんだからしっかりしなさい。
あの子達にこの手で触れるのが辛い時もあると思うけど、それは君が選んだ道だ。」


文次郎は黙って自分の血に染まった手を見つめる。

加弥乃は文次郎の背中をポンッと叩く。


「さぁ、もう行こうか。
皆君を心配しているはずだ。」

「あぁ…。」


2人は合流場所目指して走り出した。





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