人魚夢想曲

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「(ふぅ…これで終わり!)」


最後の洗濯物を干して奏は立ち上がってぐっと伸びをした。

とてもいい天気なのですぐに洗濯物は乾くだろう。

季節は夏で暑いのだが、コンクリートの道路やガラス窓がたくさんついたビルが無いためか奏にとってこの時代の暑さはマシだった。

たすき掛けを解き、木陰に腰掛けて上を見上げる。


「(木陰に入れば涼しいや)」


一休みしたら昼食の準備をしなければと予定を考えていたところで、ふと額の手ぬぐいの存在を思い出す。

包帯を解いて手ぬぐいを取って確認すると手ぬぐいはすっかり乾いてしまっていた。

額に痛みは無いが、手で触れると少し腫れているのがわかる。


「(タンコブ出来たか〜…
うん、このくらいなら目立たないし放っておいても大丈夫。)」


乾いた手ぬぐいを額に乗せたまま上を向いて木の幹に寄りかかって目を瞑ると、誰かの駆けてくる音が聞こえた。


「奏大丈夫か!?」

「(義丸さん?)」


酷く焦った表情の義丸が奏の目線に合わせて膝を付く。


「まだ痛むか?頭痛いのか?」


その言葉で奏は理解した。

義丸は今朝の出来事をまだ気にしていたのだ。

木陰で一休みしている奏の姿は具合が悪いように見えたのかもしれない。


『大丈夫ですよ
痛くありませんし、もう冷やさなくても大丈夫だと思います
今は暑かったので一休みしていただけです』


その文章を読んだ義丸はほっとした表情になり、奏の隣の木陰に腰掛ける。


「はぁ〜…そっか…よかった。
あ、でもまだ念のため冷やしておけよ?」


面倒臭そうな顔をした奏を見て、義丸は苦笑いで手ぬぐいは濡らしてきてやるから…と奏から手ぬぐいを取る。

奏の手から手ぬぐいが無くなった代わりに小さな可愛らしい包みが掌に置かれた。


「?」

「今朝は本当にすまなかった。
寝ぼけていたとは言え女の顔傷付けちまったんだ…これはその詫びだ。
勿論これで許されるとも思ってねぇ。
気が済まないってんなら俺の顔殴っても…」


奏は驚きを通り越して笑ってしまった。


「………何でそこで笑うんだよ」


少しムスッとした義丸にジェスチャーで謝りながら文字を書く。


『ごめんなさい
ここまで気にしていただいていたとは思わなくて…』

「いやいや、男として普通だろ?」


当たり前のように話す義丸を見て、改めて女にモテる男だと納得した。


「あ、そうだ。
それ、あいつらには内緒な?」


それとは、義丸に渡された包みのことで、あいつらとはきっと綱問や重など若い者達のことだろう。

開けてもいいかと確認する奏の目に気付いた義丸がどうぞと促す。

そっと包みを開けると中にはカラフルな小さな塊が入っていた。


「(これって…金平糖?)」

「金平糖って言ってな、南蛮の菓子なんだ。
滅多に手に入らないから大事に食えよ〜」


奏の知っている金平糖より色は少し薄いが、久し振りに見る駄菓子に頬が緩んだ。


「金平糖知ってたか?」

『はい、未来でも売ってます
私が知ってる金平糖と色も形も少し違いますけど』


奏の反応を見て初めて見るものでは無いのだろうと気付いた義丸の問いに未来でも売っていることを伝える。


「やっぱり未来には勝てねぇな〜
俺達からしてみれば珍しい物も奏からしたらそうでもないんだろ?」

『それはそうかもしれませんけど…
私、金平糖とっても嬉しいですよ
高かったんじゃないんですか?』

「そこは気にすんな。
まぁ…綱問達にせびられたら俺の懐がスッカラカンになっちまうけどな…」


だからバレるなよとわざとらしく真剣な顔で念を押され、奏はクスクスと笑いながら頷いた。





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