人魚夢想曲

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ある日のお昼時。

いつもの様に昼食の準備で大量のおむすびを奏は握っていた。


「(今日は一段と暑い…)」


額に流れる汗を拭い、水を一口飲もうと壺を開けたが中はほとんど空っぽだった。


「(結構皆飲んでたからなー…
もっと早く補充しておけばよかった)」


そう思い返す奏も今日は水分補給の回数が多く、食欲はあまり無かった。

軽い夏バテかと考えながらおむすび作りを中断し、井戸へ水を汲みに行く。

奏と入れ違いに白南風丸が台所へやって来た。


「奏さん、今日は早めに切り上げたので手伝いに…ってあれ?」


白南風丸はキョロキョロと辺りを見回すが奏の姿は無い。


「どうした?」

「あ、義丸の兄貴!
手伝いに来たんですけど奏さんいなくて…。」


後から入ってきた義丸もいないな…と言いながらおむすびの山から1つをヒョイと取り、つまみ食いをする。


「奏さんに怒られますよ〜」

「まぁまぁ、今はいないんだし…。
ん?奏のやつ、水汲みに行ったみたいだな。」


蓋が開けっ放しの水が入っているはずの壺に気付いた義丸は、おむすびの最後の一口を頬張ると井戸へ足を向ける。


「様子見てくる。」

「あ、はい!」


随分慣れたとは言え、奏の井戸の扱いはまだ危なっかしいのだ。





「(はぁ…暑い…)」


奏は井戸にもたれ掛かる。

体がふわふわする感覚に、台所へ水を運ぶ前に水分補給を先にしないと危ないと感じた。


「(まさかこんなに暑さにやられるとは…)」


桶を井戸の中に放り込み、綱を引っ張る。

相変わらず水を引き上げる作業には力がいる。

少し引き上げたところで奏の視界がぐらりと揺れた。


「(あれ…?)」


力の抜けた手から綱がするりと抜け、桶が井戸の中に落ちる音が響いた。

足に力が入らなくなった奏は前のめりに体が傾いたが、後ろから誰かに右腕を掴まれて倒れることは無かった。


「…っ危ねぇ…。」

「(義丸さん…?)」


焦った様子で奏の右腕を掴むのは義丸だった。


「おい、どうした?」

「(あ…お礼言わなきゃ…紙と筆…)」


義丸に右腕を掴まれたまま奏はぼうっとしていたが、お礼を伝えなければいけないと紙と筆を取り出す。

しかし、紙と筆は奏の手から地面へと落ちた。


「おいっ…!!!」


奏は力なくその場に崩れ、倒れる前に義丸が慌ててその体を支える。

体を受け止めて、奏の体がとても熱いことに気付いた。


「お前…すごい熱じゃないか…!!」


奏の額に手を乗せ確信した義丸は、ほとんど意識を手放している奏を横抱きにして奏の自室へ走るのだった。





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