十人十色

□.
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さて…、

どうしてこうなった…。


「よきかな、よきかな。」

「(よくないっ!!!)」


現在私は離れの縁側にいる。

詳しく言えば離れの縁側に座る三日月宗近の膝の上だ。

こんのすけは相変わらず心配そうにオロオロしながら私と三日月宗近を見つめている。

何故このようなことになったのか、私の方が教えてほしい。

こんのすけが三日月宗近に捕まったので助けに外へ出たのだが、こんのすけは捕まった訳ではなく三日月宗近に弱い所を撫でくりまわされていただけだった。

外に出てしまった私は三日月宗近に抱き上げられ…今に至る。


「(きっとあれは罠だったんだ…私を外へ出させる為の…。)」


まんまと罠にはまってしまったことに反省していると頭に手を置かれビクリとする。


「そんなに怖がるでない。
俺は話をしにきただけだからな。」


頭に置かれた手はポンポンと私の頭を叩き、そのまま頭を撫でられる……ん?

撫でられてる??

子供だから?

恐る恐る振り返って三日月宗近を見上げると目が合い、微笑まれた。


「(うわ…綺麗…じゃなくて!!)
ぉ…、おはなちとは…?」

「……はて、何の話だったかなぁ…。」

「………。」


絶対嘘だ。

何を企んでいるんだこの人は…!!


「最近物忘れが酷くてな…じじい故。」


いやいや、じじいじゃないでしょ!!

でも昔の刀だから私よりはおじいちゃんだからあってるのか…?

そういえば、他の刀剣男士と比べると古い刀だとか説明されたような…。


「其方はとても不安定だな…。」

「?」

「小さき身に合わぬその霊力…気になってなぁ…。」


どこか懐かしむように細められた瞳はとても美しく、吸い込まれそうになる。


「三日月宗近様、そこまででございます!」


突然暗くなる視界と顔に感じるもふもふ感。

こんのすけが私と三日月宗近の間に入ってきたようだ。

私の顔に尻尾当たってるんだけど…。


「主様、もう戻りましょう!!
あまり長居しますと他の刀剣男士様に気付かれてしまいます!!
三日月宗近様もお話が無いのであればよろしいですね!?」


こんのすけの言う通りだ。

三日月宗近は何を考えているのかわからないが、早く部屋に戻るに越したことはない。


「あなや…つまらんなぁ…。」

「全くじゃな。」

「「!?」」


三日月宗近の声に答えた新たな声に私とこんのすけは驚き振り返った。


「遅かったな。」

「仕方なかろう。一期一振の目を盗むのは一筋縄ではいかぬのじゃ。」


未だ三日月宗近の膝の上で目を見開きポカンと口を開ける私はさぞ間抜けな顔だろう。

いつ来たのか、そこには小狐丸が立っていたのだ。


「小さきぬしさま、私は小狐丸と申しまする。
大きいけれど小狐丸です。」

「ぇ…ぁ…。」


目線を合わせるように座った小狐丸は怖いくらいのいい笑顔でずいっと顔を近付けてきた。

反射的に身を引く私の体は強ばり、咄嗟に三日月宗近の服を掴んでいたようだ。


「はっはっはっ…よきかなよきかな…。」

「(はっ…!!つい…!!)」


すぐに手を離し目の前に座るこんのすけを抱きしめる。


「こ、小狐丸様まで何故ここに…!?」

「小狐丸には使いを頼んでな。」

「私が一番にぬしさまのもとへ向かいたかったと言うのに…!!」


笑う三日月宗近を睨む小狐丸は動物が威嚇している様に似ていた。

私はその目の前の状況を他人事のように眺めている。

もはや現実逃避に近い。


「(無理無理無理無理…。
何で増えるの…。
会わないようにしてたのにどうしてこうなるの…。
斬られるのとか勘弁…。
また死ぬの?
もう痛いのは嫌…。
早く部屋に戻りたい…。
こんのすけだけいればいいから早く部屋に帰して…。)」

「あ、あの…!」


思考が完全に病みそうになった時、三日月宗近とも小狐丸とも違う第三者の声がした。

小狐丸の後から恐る恐る出てきたのは少年だった。

「(あれ…この子…。)」

「あるじさま…ですか…?」

「五虎退様までいらしていたのですか!?
はわわわ…!!
い、一期一振様はこのことは…!?」


五虎退の登場に慌てるこんのすけ。

五虎退の兄である一期一振は人間への恨みが強いため、こんのすけはかなり警戒している。


「彼奴は知らん。
内密に連れて来たのじゃ。」

「な、なんですと!?
主様早く戻りましょう!!
一期一振様に知られでもしたら大変っ…もがっ…!!」

「ほれ五虎退、主に会いたかったのであろう?」


私の腕の中でキャンキャンうるさいこんのすけの口を三日月宗近は容赦なく摘んで黙らせ、五虎退へ話を進める。

おずおずと私の前に出てきた五虎退は目線を合わせるためその場に座る。


「僕は、五虎退です。
あの……しりぞけてないです。すみません。」


五虎退は名を名乗ると何やらポケットをゴソゴソと探り始める。

武器でも出してくるのではないかと身構えたが、出てきたものは白い折り紙だった。


「あの…この前はありがとうございました。
僕、元気になりました。
虎くん達が…あるじさまはいい人って教えてくれて…その…僕、会いたくて……すみません…。」


五虎退の持つ折り紙は私が置いていった虎の折り紙のはずだが、随分とくたびれている。

どうやら、何か術がかかっているのでないかと揉めたらしく、取り上げられたりしたそうだ。

色々調べられたり処分されそうになったこともあったらしい。


「あの…汚くしてごめんなさい…。
いち兄が僕のことを心配してくれているのはわかっているんです…でも、初めてあるじさまから貰ったものだから…僕…うぅ…。」


泣きそうな五虎退を見て胸が締め付けられた。

私のせいで兄弟達と喧嘩をしてしまったのに、あんな折り紙1つをこんなにも大事にしてくれるなんて…。


ーーポンポン…


「「「!!」」」

「主様…!?」

「(あっ…しまった…。)」


私は三日月宗近の膝から降り、無意識に五虎退へ腕を伸ばして頭を撫でていた。

五虎退は驚いた顔をしていたがすぐに泣きそうな照れ臭そうな、はにかんだ笑顔を見せてくれた。

その時、桜の花びらがどこからか舞ってきた…近くに桜の木なんてあったっけ?

その桜の花びらは普通となんら変わりないはずなのに、私は何故かどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。


「ほぉ…これはこれは…。」

「ぬしさま!!!今度はこの小狐を撫でてくださいま…ふごっ!!!」
「おやめくださいませ!!!」


期待のこもった眼差しで興奮したように詰め寄る小狐丸の顎にこんのすけの強烈な蹴りが入った。

こんのすけ…強い…。


「主様帰りますよ!!!」

「ぅわ…!!」


こんのすけは移動用空間を開き、問答無用で私を押し込んだ。


「よろしいですか!!!
貴方様方は主様を受け入れているかもしれませんが、他の皆様はそうとは言いきれません!!!
主様の身に危険が及ぶ可能性があるため、これ以上主様に関わるのはおやめくださいませ!!!
結界も新たに張らせていただきます!!!」


こんのすけは部屋の外にいる3人に向かって叫ぶと新たな結界を張り始めた。

今度は今までのと違って攻撃性の無い壁のような結界らしいので、今回の三日月宗近がとった策は通用しない。


「こんのすけ…怒っちゃいました…。」

「この狐め…!!
ぬしさまを独り占めするつもりか…!!!」

「はっはっはっ…お主も狐ではないか。」

「ぐっ…!!」


話し声が外から聞こえたが、こんのすけの言葉に返事をする者はいなかった。

こいつら絶対また来る気だ…。

キャンキャン怒るこんのすけを宥めるために私はパソコンを立ち上げ、高級おいなりさんの“買い物かごに入れる”ボタンを押したのだった。





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