十人十色
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※ほぼオリジナルの妖怪が出てきます。
ばみ君が帰り、少ししてからやって来た石切丸と薬研君、こんのすけの話によると、ばみ君が慌てて私を運んだものだから、皆が心配していたらしい。
薬研君とこんのすけが説明をし、どうにか落ち着かせてくれたようだ。
皆心配してくれるのはありがたいが、審神者部屋に押し寄せる勢いだったと聞いた時は、薬研君とこんのすけに本当に感謝した。
私の体調が元に戻るまで、出来る範囲で近侍の石切丸が仕事を進めてくれるとのことで、私はしばらく眠ることにした。
ーーコソコソ…
ーーカサカサ…
どのくらい時間が経ったのかわからないが、小さな物音に私の意識が浮上する。
うっすらと寝惚け眼で目を開けると、動いていた小さな何かと目が合ったような気がし、その小さな何かも動きを止めた。
「(何だこれ…動物…?…あー…へびか…。)」
再び目を閉じた私は眠りにつこうとして、自分の思考を振り返る。
へび…ヘビ……蛇!?
「ぅわあぁ!!!???」
一気に覚醒した私はそれはもう飛び起きた。
蛇らしき生き物は一匹ではないようで、何匹かいるのが見えたが、落ち着いて確認する余裕は無かった。
外へ逃げようとしたが、熱があるのに急に起き上がったことと、布団に足を取られたことでバランスを崩し後ろへ倒れかける。
その時、近くを通りかかったのか、ナイスタイミングで鶴丸が私の叫び声を聞きつけて部屋へ入って来たのだ。
「おい、御嬢!!どうしっ…たぁぁああぁぁ!!!???」
見事なスライディングで鶴丸は倒れる私の下に入り、キャッチしてくれた…ナイス。
「あ、ありがとう…ございます…。」
「もうこんな驚きはいらないんだがなぁ…ははは…。」
「(もう…?)」
熱があるというのにこんなに騒いだせいで、私はもうぐったりだ。
そんな私をそっと布団の上に下ろしながら、鶴丸は何があったのか聞いてきた。
「はっ!ヘビ!!」
「蛇?…あぁ、こいつらのことか??」
思い出したように訴えれば、鶴丸は驚くことなどなく、自分の少し後ろを親指でクイッと差す。
そう、蛇……あれ…いや、蛇…じゃ、ない…?
私が蛇だと思っていた生き物はよく見ると蛇ではなく、顔は爬虫類の顔だが二足歩行で、着物を身に付けていた。
十センチ程の大きさで、とても小さい。
「こいつらは家守(ヤモリ)、妖怪だ。」
ヤ、モリ…?
あの爬虫類の…?
あ、でもこっちは妖怪なのか…。
私が家守を見つめると、家守達はペコリとお辞儀をするので、私もつられてお辞儀を返す。
「“家”を“守る”と書いて家守…聞いたことあるだろ?
こいつらは主がいた頃からこの本丸に住みついていてな、悪さをするような事はないから安心していいぞ。
それにしても、久しぶりだなぁ〜!!」
鶴丸が親しそうに家守達と会話をしているが、私には家守達の言葉はよくわからない。
何か言葉を発しているのはわかるのだが…妖怪の言葉…?
「あれ…何これ?」
私が見つけたのは枕元にあるたくさんの植物。
わからないものばかりだが、沈丁花だけは匂いですぐにわかった。
小夜君と長谷部が持ってきた時を思い出すな…。
「家守達の見舞い品だそうだ。
お嬢お気に入りの沈丁花だろ…ナズナにタラの芽、フキノトウ…食って元気になってくれだとさ。」
「え、あ、ありがとうございます。」
家守に差し出された沈丁花を受け取り、お礼を言うと嬉しそうな顔をした気がする。
おじいちゃんの代から住みついてるという話だが、先代の時は本丸の空気が淀んでいて家守達も弱っていたようで、ずっと姿を見せていなかったらしい。
私が審神者になって浄化をしたことで少しずつ回復し、今は昔のように元気になったそうだ。
先日の幽霊騒動の時も石切丸や青江に協力をしていたそうだが、完全に回復していなかったので、家守達だけで追い払うことは出来なかったらしい。
「家を守るのが仕事なのに、あの時は御嬢に怖い思いをさせて申し訳なかっただと。」
「いえ、そんな…。
直せつ害は無かったので、気にしないでください。」
いきなり現れた妖怪に心配され、謝られ、どうしていいかわからず困惑してしまう…。
あれ…この感じ…私が審神者になって、刀剣男士達の記憶が戻った時に似ている。
私は彼らを知らないのに彼らは私を知っていて、心配され、大切にされて困惑した時と似ているのだ。
「どうした御嬢、笑ってるぞ?」
「いえ、ちょっと思い出して…。
わたしはこんわくばかりしているなーと…。」
「?」
家守達にとってはただの仕事かもしれないけど、私は家を守ってくれる都合のいい妖怪と認識したくない。
鶴丸だって親しそうに話していた。
きっと昔から仲良くしていたんだ。
「あの…無理しないてい度にお仕事よろしくお願いします。
もしよかったら、またいらしてください。
今度はわたしがおかしでもご用意しますね。」
そう言えば家守達は嬉しそうに頭を下げるので、私も自然と笑顔になる。
もしかして、妖怪の友達が出来たのでは…?
「つる丸、ところで…あのふくろは?」
「おっと!忘れるところだった!!」
開けっ放しの障子の外に大きな白い袋が置かれているのが気になり、鶴丸に聞いてみれば鶴丸は急いでその袋を取りに行く。
「家守達に先を越されたが、御嬢への見舞いだ!!」
そう言って鶴丸は袋の中身を一気にばら撒いた。
「うわっ…!?え?あ、つる…??」
上から降ってくる物体は、たくさんの折り紙の鶴だった。
「千羽とはいかないがな!!
どうだ、こういう驚きもオツなもんだろう?」
私は手に取った折り鶴と鶴丸を交互に見る。
これだけの数の折り鶴を、この数時間でよく折れたものだ。
今まで大怪我をしたり病気で入院したことなど無かったから千羽鶴なんて貰ったことなかったけど…
うん…
これは、なんか…
嬉しい。
「うん、おどろいた…けど、うれしい…。
…ありがとうございます!」
「あぁ、早く良くなってくれよ!」
お互い笑い合っていると、家守達が拾った折り鶴を私の周りに集めてくれていたことに気付く。
「ありがとうございま……!?」
その集めてくれていた折り鶴を見て私は固まる。
足がある折り鶴が混ざっていたのだ。
それも足が二本タイプだけでなく、人間のように手足がついているタイプや、まるでペガサスのように足が四本タイプもいるではないか。
「まって…これ、は…?」
「驚いたか?
ただの折り鶴だけではつまらんと思ってな。
色んなものを折ってみた!」
私の震える声に気付いていないのか、鶴丸は手足のついている折り鶴を一つ取って少しいじると、体育座りのポーズの折り鶴にして家守の横に並べる。
「ん、フッ…」
「…。」
何かに気付いた鶴丸は正座のポーズの薄紫色の折り鶴を追加し、赤いペンで頭のてっぺんに小さなリボンを描いた。
「歌仙。」
「ブフッ…!!」
私はもうダメだった。
手足のついた折り鶴だけでも笑ってしまったのに、それを歌仙にしてしまうなんて…。
「こいつは驚いた!!!
…これはどうだ?こんなのも出来るぞ!」
組体操のようにポーズを決める折り鶴や、肩車をする折り鶴など、鶴丸は顔を輝かせながら次々と折り鶴を並べていく。
「フフッ…まってっ…むりっ…!!!」
ツボった私はヒィヒィ言いながら笑うしかなかった。
「何だい、騒がしいね…。」
と、そこへ私用のお粥が入っているだろう、小さな土鍋が乗った盆を持った歌仙がやって来た。
なんというタイミングだ…。
先程、歌仙をイメージした折り鶴を見てしまったというのに…。
「アハハッ…ちょっ…うそっ…!!!
何で今…!?おなかいたっ…アハハッ…ゲホッゲホッ!!」
「おいおい、御嬢しっかりしろ!!
深呼吸深呼吸!!!」
「おひい!?
まさか悪化したのかい!?
すぐに薬研を…!!!」
私の背中をさする鶴丸と心配そうにウロウロする家守達、歌仙は私の体調が悪化したと勘違いしたらしく薬研君を呼びに行ってしまった……ごめん、違うんだ…。
その後、笑いすぎて噎せた私の熱が上がったのは言うまでもなく、その原因となった鶴丸は歌仙と薬研君にこっぴどく怒られたのだとか…。
余談
妖怪の家守はほぼオリジナルです。
参考にした妖怪は、宮守(イモリ)と言う妖怪で、死んだ武士の霊が小人の妖怪の姿になって井戸の周りに住み着くというものです。
実際はヤモリだったという話があったことと、「イモリは井戸を守る、ヤモリは家を守ると書く」と小さい頃に教わった記憶が強く残っていたので、オリジナル家守が生まれました。
住まわせる代わりに家を守ってくれる妖怪と言う設定です。
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