十人十色
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過去(大倶利伽羅・燭台切光忠)
【注意】
この話には死の表現があります。
苦手そうな方は話を簡単にまとめた、下のネタバレで内容をご確認ください。
何でも大丈夫な方は下のネタバレを飛ばし、過去編をお読みくださいませ。
(ネタバレを読んでダメそうだと思った方、本編を読まなくてもこのキャプションの内容を読むだけで大丈夫です。
次回からの話に支障は無いはずですのでご安心ください。)
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【ネタバレ】
現世に残る護衛の刀剣男士は大倶利伽羅。
小学一年生の審神者、黒橡は実家である神社に住み着いている野良猫のミケに母と作った手作りの赤い首輪をプレゼントしようとする。
首輪を持ってミケのもとへ行くとミケは寝床で息を引き取っていた。
ミケは実は長寿であり、亡くなって猫又になっていた。
黒橡を大切に思っているミケを黒橡の祖父である初代審神者が本丸へと誘い、黒橡が神の子である7歳を過ぎてからは刀剣男士ではなくミケが黒橡の護衛をするようになった。
過去編(加州清光・陸奥守吉行)にて、審神者達を助けた事から、初代審神者はミケが猫又になる可能性に気付いていた。
本丸に来る事が決まった事により、初代審神者や黒橡の本名を知っているミケは、名前に関しての記憶だけ消される。(本人了承済み)
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【以下、本編】
「おや?何してるんだい?」
居間を通りかかった父親は、妻と娘が何かを作っているのに気付き声をかける。
「ミケちゃんの首輪作ってるの!」
「プレゼントしたいんですって。」
少女は母親に習いながらキレイな赤い紐で一生懸命三つ編みを編んでいた。
話に出ているミケちゃんとは、この神社に住みついている猫の1匹で、この家族に1番懐いている三毛猫のことだ。
今年小学校に入学した少女が登校する時間になると入口の鳥居で見送りをし、学校から帰宅する時は近所まで迎えに行っているとても賢い三毛猫だ。
「鈴は付けないのかい?」
「今度のお休みの時ーーと一緒に買いに行く予定なのよ。」
「それなら、これはどうかな?」
父親が取り出したのは鈴の根付ストラップだった。
以前業者からサンプルとして貰った物で、もう必要ない物らしい。
丁度良い鈴のサイズで赤い根付もそのまま首輪の飾りとして使えそうで、鈴を見た少女はとても喜んだ。
3人から少し離れた所で、少女の護衛として現世に残っていた大倶利伽羅はその光景を見て小さく笑みを零していた。
「行ってきまーす!」
元気良く家を出た少女はミケの頭を撫でると待ち合わせていた友人と合流して学校へ向かった。
護衛の為少女の後をついて行く大倶利伽羅は、少女と同じようにミケの頭を撫でてから神社を後にする。
「にゃー。」
『行ってくる。』
ミケの頭を撫でた時、大倶利伽羅はミケの毛艶が悪くなっている事に気がついた。
『10歳くらいはいっていたか…?
帰ったらブラッシングするか…。)』
ミケの歳を思い出し、大倶利伽羅は少女の目を盗んで自分がブラッシングをするか、少女にやってもらえるように上手く誘導するか考えながら、登校する少女の後ろを歩く。
少女は友人にミケの首輪がもうすぐ出来上がることを楽しそうに話していた。
数日後、ミケの首輪が完成し、少女は朝早くから起きてミケや他の野良猫達が寝床にしている神社の裏へ向かった。
今日は審神者と燭台切光忠が現世へ来る日で、大倶利伽羅が燭台切光忠と少女の護衛を交代する日だ。
交代をする前にミケの首輪の完成が見られて、大倶利伽羅は少し嬉しそうに少女の後を着いて行った。
少女が走る度に手に持った赤い手作りの首輪の鈴がチリンと音を鳴らす。
首輪の大部分は流石にほとんど母親が裁縫で作っているが、装飾に使った三つ編みは少女が編んだものだ。
先日、少女の両親がミケが首輪を嫌がらなければ、正式に飼い猫にする相談をしていたのを大倶利伽羅は耳にしていた。
大倶利伽羅はミケが首輪を嫌がらない事を密かに祈る。
「ミケちゃーん!」
少女が床下を覗き込むと、以前用意してあげたタオルの上に猫達はいた。
まだ眠っている猫もいれば起きている猫もいる。
『にゃーん…。』
聞こえた鳴き声に大倶利伽羅が寝床から少し離れた場所を見ると、そこにはミケがいた。
『お前そんな所にいたのか…。
おい、姫、ミケはこっちだ。』
「ミケちゃんプレゼント持って来たよ〜。」
大倶利伽羅は少女の方を見て目を見開いた。
少女の目の前には確かに眠った姿のミケがいたのだ。
『お前っ…!!』
『……申し訳ありません。』
悲しそうな表情をしたミケは言葉を発した。
その尾は2本あり、ミケが猫又になった事を意味していた。
「ミケちゃん…?」
ピクリとも動かないミケを不思議に思い、身体に触れた少女はその冷たさに気付いてしまった。
「ミケちゃん…ミケちゃん…、プレゼント持って来たんだよ…ねぇ、ミケちゃん…。」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ少女に、大倶利伽羅は声をかけて慰める事すら出来ない。
悲しみにくれる小さな背中を撫でてあげる事も出来ない。
頬を流れ続ける涙を拭ってあげる事も出来ない。
ただ、少女を見つめる事しか出来ない自分が悔しくて仕方なかった。
ミケが亡くなっている事に気付いた少女はミケを抱き抱えて泣き、その事を理解しているのか他の野良猫達も少女の近くでただじっとしていた。
少女の泣き声に気付いた父親が駆けつけ、状況を理解するとミケを抱えて泣き続ける少女を優しく抱き締めた。
「お父さん…ミケちゃん…ミケちゃんがぁ…。」
「うん…そうだね。
ブラッシングして…キレイにしてあげて…首輪を付けてあげようね…。」
寿命が訪れ猫又となったミケは悲しむ少女の側へ行き寄り添うが、ミケの姿が見えない少女が気付く事はなく、ただ泣き続けていた。
『そっか…それは姫ちゃん辛かったよね。』
審神者と共に現世へやって来た燭台切光忠は大倶利伽羅から今朝の出来事を聞いていた。
審神者と燭台切光忠がやって来たのは昼過ぎのことで、来た時にはキレイな箱に入れられたミケの横で少女が泣き疲れて眠っていたのだ。
今日はミケを家に上げ、1日一緒に過ごしたら明日神社裏に埋葬するらしい。
『でもまさか猫又になるとは驚きだったね。』
『あぁ、お前いくつだったんだ?』
寝ている少女の顔の横にぴったりと寄り添って丸くなっていたミケが目を開け、視線だけを2人に向ける。
『数えるのも面倒になってしまいまして…30までは覚えております。』
飼い猫ではなかったので、長生きしていても人に気付かれる事は無く、気付いたら猫又になるまでの年齢となっていたらしい。
「そうかそうか、だから前に俺達が困っていたのを理解して助けてくれたんだな?」
眠っている少女の頭を優しく撫でながら審神者が納得したように言う。
審神者の言う“前”とは、少女の七五三の写真撮影をした日の事だ。
加州清光がミケを抱き上げている所を刀剣男士の姿が見えない少女に見られてしまい、困っていた所をミケが上手く誤魔化してくれたのだ。
審神者は薄々ミケの賢さに気付いていたようで、猫又になったと知った時もあまり驚いていなかった。
『猫が飛んだと思い込んだままでは、不思議な見目の物の怪の類にまで興味がいってしまうと心配になったので…。』
「ははは、お前は本当に賢いなぁ。
そこで提案なんだが、うちの本丸に来ないか?」
審神者は大まかに時の政府や刀剣男士達の説明をし、少女の護衛についての話もする。
刀剣男士の護衛をつけるのは少女が神の子と言われる7歳を過ぎるまでだが、その後の事も審神者は多少心配しており、その役目をミケに任せようとの考えらしい。
「7歳を過ぎれば物の怪の類が目を付ける事はほとんど無いだろうし、特別な御守りも持たせる予定だから恐らく危険な目には会わないはずだ。
だが、万が一の事を考えて見守っていてほしいんだ…どうだ?」
審神者の話を驚いた顔で聞いていたミケは、眠っている少女の顔を見つめる。
『頼まれるまでもなく、私はこれからもこの子の近くにいるつもりでした。
私だけではどうにも出来ない事が起こるかもしれないと考えると、御一緒した方が良いかもしれないですね…。』
「よし、決まりだな!」
審神者はミケの頭を撫でると首に片手を添える。
すると、ミケの首に少女からのプレゼントの赤い首輪が付いていた。
首元の違和感に気付いたミケは、近くに飾ってあったツボの微かな反射を鏡代わりにして首輪を確認する。
『これは…!!』
「可愛い孫娘からのプレゼントだからしっかり付けてもらわんとな?」
ミケに贈られた首輪は副葬品となるので、ミケの首に付いているのは何も不思議な事では無い。
しかし、本来は埋葬された後に副葬品の首輪が付くはずなのだが、ミケの身体はまだ埋葬されていない。
どうやら審神者がちょっと力を加えて一足早く付けられるようにしたらしい。
『ありがとうございます…!』
「野良猫又だと間違われないように早く付けたかったしな。」
『ミケちゃん似合ってるよ!
ね、伽羅ちゃん!』
『あぁ。』
燭台切光忠と大倶利伽羅に褒められ、ミケは照れたように耳をピクピクと動かす。
「さて、さっそく本丸についての話だが、まず見た目がヤモリの先住妖怪がいるんだが…食べたりしないよな…?」
『つい追いかけてしまうかもしれませんね…。』
「食わないでくれよ!?」
『善処します。』
そう言いながらミケはこれからの生活を少し楽しみに思いながら尻尾をゆらゆらと揺らすのだった。
それから十数年後、審神者が亡くなり二代目審神者によって刀剣男士達の記憶が消され、ミケは大人になった少女のもとへ行く事も出来ず山へ姿をくらます事となる…。
(本丸に来る事が決まった事により、初代審神者や黒橡の本名を知っているミケは、名前に関しての記憶だけ消される。本人了承済み。)
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