十人十色
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「…では行ってくるよ。」
「何も準備出来なくてごめんね…。」
「大丈夫だから、2人とも任務に集中して。
怪我しないで帰ってきてね。」
どこか心配そうな歌仙と光忠は、それぞれ同じ部隊の小夜君と伽羅に連れて行かれ、私は近侍のまんばと2つの部隊を玄関で見送った。
今は丁度夕飯の準備をする時間帯。
いつもなら料理が得意な歌仙や光忠が中心になって夕食の用意をしている頃だが、時の政府から急な任務要請が2件きたので、2人にはそれぞれそちらに行ってもらった。
時代や内容的にも歌仙と光忠がいた方が良さそうだったのだけれど、どうやら2人は夕飯の用意が出来ていない事の方が心配らしい。
歴史を守る刀剣男士としてそれでいいのか…?
「さて…、私達も厨に行こうか。」
「姫も手伝うのか…?」
「一人暮らししてたんだから少しくらいは料理出来るよ?
身体も成長して随分動きやすくなったしね。」
私の身体は15歳に成長し、とても動きやすくなった。
上の方の棚の引き出しだって1人で開けられるようになったし、パソコンのタイピングだって早くなった。
これなら料理も出来るだろうと、私は今日の料理当番の陸奥と秋田君がいる厨へまんばと向かった。
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「あ、姫様!」
「お?どういた?」
「手伝いに来たんだけど…メニューは決まってる?」
首を横に振る2人の前には食材が並んでいた。
私とまんばもその食材を覗き込んだのだが、思わず驚きの声を出す。
「何だこれは!?」
「なんでお肉がこんなに!?」
鶏肉、豚肉、牛肉…それぞれが異様にたくさんあったのだ。
秋田君の話によると、安売りをしていた時にずお君、兼さん、御手杵がそれぞれ購入してしまったそうだ。
肉が安売り!?買うしかない!!…と嬉々とした表情で購入する3人の姿が安易に想像出来た。
そして、そういう場合は先に連絡をしろ!…と怒る歌仙と、せっかく買ってきてくれたのだから…と歌仙を宥める光忠が続くまでがセットだろう。
「賞味期限は…あー…あまり持ちそうにないね…。
鶏肉なら唐揚げが出来るけど…もう少しお肉消費したいところだよね…。
野菜と炒めもの…も時間かかるなぁ…人数も多いし。」
肉料理かぁ…レシピのレパートリーあんまりないんだけどな…。
大人数で食べられる物…鍋…鉄板焼き…カレー……カレー!!
「カレー!!」
「かれーですか!?」
「あの茶色いやつか…。」
「ほりゃあ、楽しみやか!」
「カレー久しぶりなの?」
嬉しそうな秋田君とカレーの記憶が曖昧なまんば、わくわくしている陸奥を見るからに、暫くカレーを食べていないと見たのだが……
「いや、俺達はカレーを食ったことがない。」
「えっ!?こんな大所帯で男ばっかりなのに!?」
まんばの発言に私は衝撃を受けて思わず声が大きくなる。
それなりに食欲旺盛な男子…男士達がいるというのに、大人気のカレーを食べたことがないなんて…嘘でしょ…。
「わしは洋食やら中華やら気になっちょったんだがな〜。」
「初代様はあまりお好きではなかったみたいで…。」
原因はおじいちゃんか。
思い返せば、確かにおじいちゃんとご飯を食べる時は和食ばかりだったような…。
昔の人だから仕方ないのかな…いやいや、それでも男士達にはいろいろ食べさせてあげてよ…!
男士達の記憶が戻る前は、私はお米以外にもパンやインスタントとかを食べていたから気にしていなかったけど、記憶が戻って一緒に食事をとるようになってからのメニューは確かに和食ばかりだった…。
歌仙の雰囲気から和食が得意なんだと勝手に思い込んでいたけど、ただ作る機会が無かっただけなのかな。
光忠も多分洋食とか興味ありそうだし、今度レシピ本とか2人に話してみよう。
「カレーを食べたことがないのなら尚更今日はカレーにしよう。
野菜もお肉も入れられるし、難しくないからたくさん作れると思うよ。
えっと…肝心のカレールーが無いから、誰かにおつかいを頼んでその間に野菜とお肉を準備して…あ、コーヒーとヨーグルトと…あとチョコレートも買ってきてもらおう。」
まさかの男士達がカレーを食べたことが無いという事実についつい作る前から気合いが入ってしまい、普段はあまりこだわったことがない隠し味にまで手を出してしまった。
まさか自分がここまでわくわくするとは思わなかったな…初めてのカレー、どんな反応をするのか少し楽しみだったりする。
「何だか独特な匂いがするね…。」
同じタイミングに帰ってきた2部隊が玄関に入ると、今まで嗅いだことのない匂いが漂っていた事に光忠が呟く声が聞こえた。
「まさか何か失敗をしたんじゃ…」
「おかえりなさい。」
厨へ直行しそうになる歌仙を出迎えと同時に阻止することに成功。
「失敗なんてしてないから大丈夫だよ。
今日は皆が食べたことないって聞いたからカレーを作ったの。」
「かれー…。」
「報告は後でいいから、手を洗って着替えたら広間に来てね。
早く来ないと無くなっちゃうかもよー。」
からかうようにそう言えば、歌仙の部隊にいた小夜君、愛染君、ばみ君と光忠の部隊にいた五虎退君、浦島君、前田君がピクリと反応してバタバタと慌ててその場を後にした。
「カレーってあのドロドロしたやつか?」
「俺食ってみたかったんだよなー!」
歌仙の部隊にいたたぬさんは、未知の食べ物に少し顔をしかめるのに対し、獅子王は楽しみでウキウキしている様子でその場を後にする。
「主殿、カレーとは辛い料理なのですか?」
「辛いけど、子供にも大人にも人気な料理だよ。
甘口、中辛、辛口って用意してあるから、辛いのが苦手そうだったら甘口から試してみてね。」
「かしこまりました!
楽しみですな〜鳴狐!」
「うん、早く行こう。」
光忠の部隊にいた、鳴狐の肩に乗るお供の狐の頭を軽く撫でれば鳴狐に撫で返され、鳴狐はその場を後にする。
いい加減慣れてはきたけど…もう中学生くらいの見た目なんだし子供扱いはちょっと…うーん…刀剣男士だから仕方ない…のか…?
少し複雑な気持ちで去って行く鳴狐とお供の狐を見送り、そして何も言わずに去ろうとする伽羅の背中を見て思い出した。
「あ、そうだ伽羅!
ミケちゃん達のご飯はもうあげてるから。」
「……カレーか?」
「さすがにカレーは駄目かな…。
お肉がたくさんあったから、ネットで猫用手作りご飯調べて作ったよ。」
「…わかった。」
何か言いたそうに見えたけど…もしかしてミケちゃん達のご飯作りたかったかな…?
今度簡単な猫用のご飯とかおやつとかの作り方を教えてあげたら喜ぶかもしれない。
「ミケちゃん達のご飯までありがとうね。
それに皆、姫ちゃんが作ってくれたから嬉しそうだね。」
「初めてのカレーが楽しみなのでは?」
「それもあるだろうけど、主が作ってくれたことが一番嬉しいんだよ。
…余程美味なのか、近侍の山姥切は仕事を忘れてかれーとやらに夢中なようだしね。」
2人がそんなことを言うから照れてしまうが、歌仙の最後の言葉に近侍のまんばがいないことに初めて気付く。
決まりではないが、私がいつ成長で気を失ってもいいように常に近くにいるようにすることが、近侍を務める男士達の間で暗黙の了解となっているようだった。
確かに…まんば、カレーに夢中だったな…。
「あ、まんばで思い出した。」
「「?」」
私が何故1人で2つの部隊の出迎えに来たのか…。
それはたまたま私が広間から洗面所へ向かおうとしていた所で、ゲートを使用した鈴の音が聞こえて玄関に来たから…。
洗面所へ向かっていた本来の目的を思い出して私は申し訳なく思いながら、苦笑いで2人を見る。
「えっと…洗濯頑張りましょー…。」
「「え?」」
意味はわからないが嫌な予感しかしなかった2人はその後、初めてのカレーに舌鼓を打ちながらも、まんばや鶴丸、粟田口の短刀達が服にカレーの染みを作っている事実に遠い目をしていた。
前掛け…検討しなきゃかな…。
(余談)
カレーは大好評で大成功でしたが、鶴丸、まんば、秋田君が服(と布)を汚してしまい、薬研の白衣にも誰かのカレーが飛んでしまい、いち兄や堀川君達がカレーの染みを少しでも取ろうと服をティッシュでトントンしてました。
カレーの染みは早めに対策した方が良かった気がする!…と審神者は洗面所へ未使用の歯ブラシを取りに行く途中でした。
審神者は男士たちに対して敬語離れしてきています。
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