愛憎

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05


海は穏やかで天候の変化もなく、敵襲もないハートの海賊団は自由に過ごしていた。

今までは部屋から出ることを禁止されていたエリザも先日の敵襲があった日から許可をもらい、今はベポと甲板でのんびり過ごしている。


「エリザ、何読んでるんだ?」

「んー?
“人体の急所について〜急所のつき方特別編〜”」

「アイー……」


壁に寄りかかって座っているベポの足の間にエリザが座る体制で本を読んでいた。

頭上からのベポの質問にエリザは本から目を離さず答えるとベポは本のタイトルに微妙な顔をしていた。


「はぁ〜…」

「いいなぁ…」

「癒される…」


遠目からエリザとベポの様子を見ていたクルー達はその光景に顔をデレさせていた。

今まで船に女が乗ったことが無いため、男だらけの船に華があると喜び目の保養にしているのだ。


「まぁ…手出そうとしたら殺されるだろうけどな……」

「賞金稼ぎなんだもんなー…」


うんうんと以前のシャチを思い出しクルー達は頷いた。

シャチも若干顔が青ざめているようにも見える。

そう言えば…とペンギンが古い新聞を取り出す。

ペンギンが見せた記事は海賊に襲われた町のことが載っていた。


「その記事がどうしたんだ?よくある話だろ?」

「あぁ…実は少し気になることがあってな…
この町長の……あ…」


ペンギンの話の途中で新聞が消えた。

新聞はいつの間にか側に来ていたエリザが奪い取っていたのだ。


「他の海賊の悪行チェック…?随分なことですこと…
そんなことよりも悪臭のもとになるものをどうにかするのが最優先だと思うのだけれど?」


エリザが横目で視線を送る先には山盛りになった洗濯物の山だった。

ちなみにまだ洗っていない。


「げっ…!
誰だよ!サボったやつー!!」

「船長に見つかったらやべぇ!!」


バタバタとシャチ達は山盛りの洗濯物を洗いに向かった。


「……エリザ…」
「読む本が無くなったところなの
この新聞貰っていくわね…暇潰しに丁度いいわ
あ、ダメにしちゃったらごめんなさいね…ほら、この新聞古いから…」


振り返らずに新聞をひらひら振ってエリザは船内へ入って行った。

その姿を何か考えながらペンギンは見つめていた。




ーーバタン…

ーーグシャッ


部屋に戻るなり手に持っていた新聞を握り潰すエリザ。

その顔は悲しそうな憎しみの表情に染まっていた。




ーーコンコン…


ノックをしても中から返事は無い。

返事が無いことはわかっていた。

誰もいないことは確認してあったからだ…。

エリザはそっとドアを開けると誰にも見られないうちに部屋の中に入った。

静かに素早くローの部屋を物色し始める。

目的は自分の心臓。

そろそろ次の島が見えてくる頃だと耳にしたエリザは、先に心臓を取り返しておけば島に着き次第さっさと船から降りられると考えていたのだ。


「(どこに隠したのよ…!)」


探しても探してもローの部屋からエリザの心臓は見つからなかった。

もしかしたら財宝が閉まってある部屋にあるのかもしれないと考え始めたエリザは、とりあえず部屋から出ようとした。

その時、エリザに痛みが走った。


「っ…!!
…これはっ……!!」


前に一度だけ味わったことのある痛み。

心臓を握られた時の痛みだった…。

急いで部屋を出て周りを見渡すと、壁に寄りかかったローがいた。

ローはニヤリと笑う。


「よぉ…探し物は見つかったか?」

「トラファルガー…!」


エリザはローを睨むがローは相変わらず笑ったままで、手に持ったエリザの心臓を見せてきた。


「どうせ次の島で逃げるために心臓を取り返しておこうって魂胆だろ?
だが残念だったな…次の島は無人島だ」

「!」


驚く表情のエリザ。

ローは手に持った心臓に軽くキスをすると背を向けてどこかへ歩き出した。


「簡単に手放すわけねぇだろ…?」


最後にそう言葉を残したロー。

ローの姿が見えなくなった頃、廊下に打撃音が響いた。

エリザが立っていた廊下の壁には八つ当たりして出来た跡が残っていた…。






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