人魚夢想曲
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重に奏を部屋まで送らせ、残った7人は1つの部屋に集まっていた。
「それで、奏への疑いは晴れたのか?…舳丸。」
「お頭、気付いていたのですね…。
兄貴達もですか?」
舳丸は皆が奏を受け入れる中、奏は敵の間者ではないかと疑っていた。
「あんな睨むような目で見てたらな〜」
「まぁ、奏本人は気付いていなかったみたいですけどね。」
疾風の呆れた声に、宴会の時奏の隣で言葉を交わしていた義丸が答える。
「で?お頭が認めたのにどうして舳丸は奏を疑ったんだ?」
由良四郎の問いに対しての舳丸の答えはこうだった。
奏が見慣れない服を着ていたことは南蛮の服かもしれないということでいいとして、奏がここへ辿り着いた経緯で引っかかったそうだ。
南蛮の難破船。
ここ最近全くそんな話は聞いていないのだ。
兵庫水軍に危険が及ばないから偶然自分の耳には入っていない話なのでは…と舳丸は考えたそうだが、あまりにも上役達があっさりと受け入れていたので不審に思ったそうだ。
「なるほどな…。
舳丸が奏を疑ったのは俺達のせいでもある。
………いいか舳丸、これから話すことは他言無用だ。」
第三協栄丸の真剣な表情に自然と舳丸の背筋がすっと伸びる。
そして第三協栄丸は全てを話した。
舳丸は一言も声を発しなかったものの、終始目を見開いて驚いた表情で話を聞いていた。
「…とまぁ、こんな感じだな。
このことを知っているのは今この場にいる者だけだ。」
第三協栄丸は明日舳丸に勝手に話をしたことを奏に謝らなきゃなーといつもの様に豪快に笑う。
「………お頭達は本当に信じているんですか?」
舳丸のその一言にその場の空気が変わる。
「舳丸、それはお頭と俺の目が信じられねぇってことか?」
義丸の問いに舳丸はまっすぐ目を見て肯定の返事をする。
上役達を否定する様な態度をとったことに舳丸は緊張で膝の上の拳を強く握る。
しかし、予想に反し場の空気は和やかだった。
「まだまだ舳丸も若ぇな〜」
「それに真面目だからな。」
「女の嘘とホントも見分けられないようじゃ、この先苦労するぞ。」
「だからお前はもう少し女遊びしとけって言ったんだ。」
「義丸はもうそれ以上しないでくれ。」
皆の反応に先程とは違う驚きの表情をする舳丸に第三協栄丸が声をかける。
「お前がさっき奏を見つけた時、あの子はどんな様子だった?」
「…俺が見た時彼女は月を見上げていました。
しばらく様子を見ていましたがそのまま動かず月を見上げたままだったので、声をかけようと肩に触れたら…とても驚いたようで……」
その時の奏の表情を思い出す。
あの表情は脅え…恐怖だ。
咄嗟に舳丸の腕を振り払い、足がもつれて転ぶ…あの脅え様と慌て方は本物だった。
「………震えてました。」
男達に襲われていた奏は、もしかしたら男が怖いのかもしれない。
本当は男所帯の兵庫水軍にいるのは行く所が無いから無理をしているだけかもしれない。
そんな考えが舳丸の頭をよぎる。
「……少し…考えてみます。」
「あぁ。奏のためにも仲良くしてやれよ〜」
全てお見通しの様な第三協栄丸の笑顔に、答えを急ぎすぎた舳丸は少し恥ずかしく感じた。
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