魔法の愛言葉

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ヒッポグリフの事件があってから
―ロッテは怒ると恐い―
と言う話はすぐに広まった。

マルフォイの傷はさほど深くは無いが、右腕は包帯を巻いて吊っていた。

それに比べロッテの傷は深かった。

にもかかわらずロッテは包帯を巻いただけで、いつものように自分の仕事をこなしていた。


「ロッテ!」

「リーマスどうしたの?」


ロッテが廊下を歩いていると焦った様子のリーマスがやってきた。


「どうしたのって君…、酷い怪我をしたそうじゃないか!!」

「あぁ…あれね…。」


その話題を出した瞬間ロッテの目が据わったのを見て、リーマスは驚いた。


「あ、そういえばリーマス!あなたの授業とても人気だそうね!みんなが良く話してくれるわ!!」

「え…?あ…そうなんだ…それは嬉しいことだね!」


リーマスは話を元に戻そうかと一瞬頭を過ぎったが、触れてはいけないことだと判断しそのまま話を進めていた。

廊下なので教室を行き来する生徒達に挨拶をする二人。

そんな二人に挨拶を返しては離れてからチラチラとこちらを見る生徒達。


「ねぇ、私達やけに見られてる気がするんだけど…?」

「ん?
あぁ…、それはきっとわたしとロッテが一緒にいるからだよ。」


意味がよくわからないロッテはリーマスに再び質問しようとしたが、授業の時間になりリーマスは急いで闇の魔術に対する防衛術の教室へ行ってしまった。


「私とリーマスが一緒にいて何かあるの…?」


ロッテの呟きが廊下に響いた。


十月になり、三年生は週末に行く初めてのホグズミードを楽しみにしていた。


「(そういえば…、ハリーは大丈夫かしら…?)」


ロッテはハリーがあの夫婦からちゃんとサインが貰えたか心配していた。

二十年前は自分も楽しみにしていたことをロッテは思い出した。

あの頃は魔法いたずら仕掛人とリリーとよく一緒にいたものだ。


“ゾンコに新作が出たらしいな。ロッテ、お前もくるか?”

“ごめんシリウス。私はリリーと一緒にマダム・パディフットに行く約束があるの。”

“えー!?リ…エバンス、二人で一緒に行こうって言ったじゃないか!”

“ポッター!私はイエスと言っていないわ!!私はロッテと一緒に行くの!”

“ジェームズ諦めなよ。あ、僕はピーターとハニーデュークスに行くからまたあとで落ち合おうよ!”

“ハロウィンのお菓子、たくさん買ってくるね…!!”


ポタリと書きかけの書類に涙が落ちた。


「っ…!?
(いけないっ…!何を思っているのよ、私は…!!)」


カリカリ―――


私室の扉の音にロッテは驚き、急いで涙を拭い扉を開けて外を見た。


「?……あら?」


ロッテが扉を開けたが、そこには誰もいなかった。

しかし、よく見ると足元に大きなオレンジ色の猫がいた。


「誰の猫かしら…?
(どこかで見たことあるような気もする…。)」


ロッテが屈んで猫を撫でると猫は気持ちよさそうにゴロゴロと声を出した。

かと思えば、今度はロッテのことをじーっと見つめる。


「どうしたの?
あなたの飼い主はどこにいるのかしら?」


ロッテはそう言い猫を抱き上げようと手を伸ばした。


『あんたも普通じゃないな…。』

「え…?」


猫から声が聞こえた。

しかし猫は何事も無かったかのようにどこかへ歩いて行ってしまった。


「あの猫………何者?」





第一回目のホグズミード週末がやってきた。

ロッテはハリーのことが心配になり、玄関ホールへ向かった。

だが、そこに生徒はいたものの目当てのハリーはいなかった。


「ロッテ!」


ロッテに気付いたハーマイオニーがロンと一緒に駆けてきた。


「もしかしてロッテもホグズミードに?」

「いいえ、ハリーを探してるのだけど…。」


ロッテの言葉を聞いてロンとハーマイオニーは気まずそうにお互い顔を会わせた。


「ハリーは…談話室に行ったよ…。」

「あぁ…あの夫妻ったらサインしなかったのね…!」


ロンからハリーの居場所を聞くとロッテは二人と別れ、グリフィンドールの談話室へ向かった。

階段を上がっていると、もっと上の階段を上がっていくハリーの姿が一瞬見えた。

談話室には向かっていないようだ。

ロッテはハリーが見えた階へ小走りで向かった。

ハリーを見かけた所に着くと、誰かの話し声が聞こえる。

それはフィルチだった。
ハリーに何やらガミガミ言っているようだ。


「ミスター・フィルチ、ミスター・ポッターは私との約束があったのでここにいたんですよ?」


突然の登場に二人は驚いてロッテを見た。


「そうよね、ハリー?」

「え……あぁ、はい。そうです…!約束してました!」


ハリーはロッテに話を合わせてフィルチから逃げようとした。


「それはどうですかね校医さん…。
わたしが思うに、あなたのことですからこいつと何か企んでいるのではないかと思いましてねぇ…?」

「もう子供ではありませんよ…?いつの話をしているんですか?
とにかく、ハリーは私が連れて行きます、約束なので。」


二人の会話はお互い敬語だが、本来の敬語の使い方とは違い、皮肉を言っているのと同じだ。

ロッテはハリーを連れて階段を上へ上がっていった。

フィルチは二人を姿が見えなくなるまで睨んでいた。


「ロッテ、ありがとう。」

「いいのよ。
それにしても、フィルチって昔から変わらないわ…。いつも生徒を疑いの目で見るんだから!」


しばらく歩きながら話していた二人だが、ロッテが思い出してハリーに話し出した。


「あぁ、そうだった!
ハリー、これからリーマスと一緒にお茶でもしない?」

「ルーピン先生と?」


ハリーが言うとロッテは手に持っていた包みを顔の高さまで上げ、ニコリと笑った。


「クッキー焼いたの!」


コンコン―――


「やぁロッテ、いらっしゃい!
おや、ハリーも一緒なのかい?」


ドアが開くと笑顔のリーマスが顔を覗かせた。


「誘っちゃった!ダメだったかしら?」

「そんなことないさ、歓迎するよ!」


リーマスに通され、ロッテとハリーは部屋に入った。

中に入ると部屋の隅に大きな水槽が置いてあった。


「ちょうど次のクラス用のグリンデローが届いたところなんだ。」


グリンデローはガラスに顔を押しつけ、百面相をしながらこちらを見ていた。

リーマスは紅茶を用意し、ロッテは手作りクッキーをお皿に広げた。

「すまないが、ティー・バッグしかないんだ…。」

「私は構わないわよ?
ハリーはお茶の葉でうんざりしているだろうし…。」

「ロッテ知ってたの!?」


ハリーの驚く声にマクゴナガル先生から聞いたとロッテとリーマスは話した。


「気にしたりしてはいないだろうね…?」

「いいえ…。」


ハリーはそう答えたが、顔は大丈夫そうではなかった。


「何か…心配事があるの…?」

「ううん…。
………………やっぱり、ある。」


一度は否定したハリーだが、答えを訂正した。

ハリーはリーマスに何故授業でまね妖怪と戦わせてくれなかったのかを聞いた。

ロッテはその授業の場にいたわけではないし、ハリーとリーマスの問題なので口を挟まず、二人の会話をただ聞いていた。


「ルーピン先生。あの、吸魂鬼のことですが――」


コンコン―――


ハリーの言葉はドアをノックする音で途切れた。


「どうぞ。」


リーマスが言うと、入ってきたのはセブルスだった。

手にはゴブレットがあり、かすかに煙が上がっている。


「あぁ、セブルス。」


笑顔でリーマスが言い、ロッテはセブルスに手を振った。


「どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」


セブルスはデスクにゴブレットを置くと、ロッテとハリーを見た。


「お茶ついでにハリーに水魔を見せていたのよ?」


ロッテはニコリと笑いセブルスに話した。


「セブルスもクッキーいかが?
今日焼いたの!」

「………………貰っておこう。」


セブルスの答えにハリーは驚いた。

セブルスのことだから冷たくあしらうと思っていたのだ。


「ルーピン、すぐ飲みたまえ。」

「はい、はい。そうします。」


ロッテはハリーに近くにあるペーパーを取ってもらい、クッキーを数枚包んでいた。


「一鍋分を煎じた。もっと必要とあらば…。」

「たぶん、明日また少し飲まないと。
セブルス、ありがとう。」


リーマスはゴブレットを手に持ち言った。


「礼には及ばん。」

「はい、セブルス。
数枚包んでおいたわ!」


セブルスはロッテから包みを受け取ると、部屋を出ていった。

リーマスはゴブレットを見ているハリーに微笑んだ。


「スネイプ先生がわたしのためにわざわざ薬を調合してくださった。
わたしはどうも昔から薬を煎じるのが苦手でね…。
これは特に複雑な薬なんだ。」

「リーマスったら本当に煎じるのが苦手でね、魔法薬学の授業ではよくジェームズに指導してもらってたのよ?」


少し笑ってロッテがハリーに言うとリーマスもロッテの話をした。


「ロッテだって魔法史が苦手でリリーにつきっきりで教えてもらってたじゃないか…!」


ロッテとリーマスの子供のような言い合いにハリーは可笑しくて少し笑った。


「それよりリーマス、薬は?」

「あぁ、そうだった…。
砂糖を入れると効き目がなくなるのは残念だ…。」


リーマスの言葉を聞いてロッテは相変わらず甘いの好きね…と呟くと、すぐにクッキーが食べられるようにリーマスに一枚クッキーを渡した。


「どうして……?」


ハリーの聞きかけた質問にリーマスは答え、一気に薬を飲んだ。

リーマスは身震いし、すぐにロッテのクッキーを食べた。


「スネイプ先生は闇の魔術にとっても関心があるんです。」

「そう?」


口走ったハリーの言葉にリーマスは関心を示さず、またクッキーを食べ美味しいとロッテに言った。


「人によっては………
スネイプ先生は『闇の魔術に対する防衛術』の座を手に入れるためならなんでもするだろうって、そう言う人がいます…。」

「ハリー、いくらセブルスでもリーマスを殺そうとなんて思わないわよ?(……たぶんね)」

「わたしの心配はいらないよ、何かあったらきっとロッテが治してくれるさ。」

「あら、何でも治せると思わないでよ?」


悪戯っぽく笑うロッテにリーマスは苦笑いした。

その後、そろそろホグズミードに行った生徒達が帰ってくると言うのでハリーは寮に戻った。

残ったクッキーは持って行っていいと言うので、ハリーはロンとハーマイオニーに持って帰ることにした。

ホグズミードには行けなかったが、ハリーはロッテとリーマスとのお茶会で少し満足げだった。







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