十人十色

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「主様只今戻りました!」

『おかえり、こんのすけ』


部屋の入口にポンッと現れたこんのすけにノートパソコンの文字を打って返事をする。


『どうだった?』

「皆様動揺しておられましたが…恐らく大丈夫でしょう。
ただ、手入れをしたからと言って信用されたわけではありませんので、どうぞお気を付けくださいませ!!」

『ありがとう』


こんのすけに任せたこれからの話についてと、本丸にいる全員分の紙風船を使っての手入れ案はとりあえずうまくいったみたいだ。




昨夜、この本丸で刀剣男士達とどのように過ごしていくかこんのすけと話し合っていた時、手入れはどうするかと言う問題になった。

通常、傷付いた刀剣男士を審神者自らが手入れ部屋にて手入れをすることになっている。

しかし、この本丸で政府の指示通り審神者として仕事をするには刀剣男士達と接触するのはなるべく避けたいところだ。

そこで思い付いたのが私の霊力だけを刀剣男士に渡すことだ。

手入れは審神者の霊力を刀剣男士に分けて行われているので、仕組み的には同じため可能だとこんのすけは言っていた。

聞いたはいいが、どうやって霊力を渡すかが問題だった。


「札を書いていただければ霊力が込められた札となりますが、顕現や鍛刀、手入れには多くの霊力を必要とします。
今の主様では札だけで完全に手入れをすることは難しいでしょう。
そういった類の経験があれば話は別ですが…。」


札なんて書いたことない。

実家は神社だが、札作りなんて大事な仕事は神主である父の仕事であって手伝いでやらせてもらえる事ではない。

何より私は昔から神社に関わることから遠ざけられていた記憶がある。


「主様が創り出すものなら通常より霊力が多く込められるかと思いますが…今のお体では難しいかもしれませんね…。」


どうしたものかと悩む中、ふと実家の神社を思い出してこんのすけへ尋ねてみる。


『折り紙はどうかな?
この身体でもどうにか折れると思うんだけど』

「折り紙ですか!?」


声を上げるこんのすけに驚いた表情をすると、こんのすけははっと我に返る。


「失礼いたしました。
少々驚いてしまいまして…。
こちらの話ですのでどうぞお気になさらず…!!」


少し疑問に思いながらも話を進めるこんのすけの話に耳を傾ける。


「折り紙はとても良い案だと思います!
あとは何を作るかですが器のような…中に霊力が込められる空間があるものが好ましいかと…。」


とても簡単なものはコップ型だが、空間はあまり広くないし、何より蓋がない。

折り鶴も最後に体の部分を膨らませる為、空間が出来るがかなり小さい。

霊力を込めると言うのだからやはり空間がそれなりにあって蓋があった方がいいだろう。

…とすると私の知る限り案はひとつ…。




「紙風船とはとても良い案でしたね!
空間もありますし、コップ型と違って霊力が流れていく心配もありませんし、何より主様の息吹が使われています!!」

『私の息はそんなに重要なの?』

「勿論でございます!!!
息と言えども主様の体内にあったもの、主様の一部に変わりありません!
強い霊力となりましょう!!
強力な札を書く方はご自身の血液を使って書いていたりするのですよ!」


あー…マンガでよく見るやつか…。

自分の指切ったりするんだよね。

痛そうだし、何より今の私には出来ないことだ。

赤子の姿になって身体に印が刻まれたこと以外で私の変わったところ…それは私は私自身を傷付けることが出来ない。

自殺出来ないように政府が何か私に術をかけているようだ。

こんのすけは何も言わないが恐らく知っているだろう。


「くぁ…」

「主様、昨夜は慣れない身体で全員分の紙風船を折るのに疲れたことでしょう。
どうぞお休みください!
何かございましたらこんのすけが起こします故。」


私が大きな欠伸をこぼすと、こんのすけは座布団とタオルケットを引っ張り出してくれた。

今の身体にはこれで充分だ。


『じゃあ、お言葉に甘えて…』


私は座布団の上に寝転がりタオルケットをかける。

中身が25歳と言えども、紙を折るだけの折り紙は赤子の身体では少々難しかった。

こんのすけに取り寄せてもらった千代紙を何枚無駄にしたことか…勿体無い…。

それでも、頑張って折った紙風船がちゃんと全員の手に渡ったと聞いたことは嬉しかったので良しとしよう。


「(大所帯だし…皆元気になったら、笑い声とか賑やかな声が聞こえるようになるかな…。)」


自分はその輪に入れないとわかっているが、顔だけは知っている刀剣男士達の元気な姿を想像して悲しくなった。





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